短編3
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雪が降りそうな空だ、と普段と様子が違う空を見上げる。肌を撫でる風も心なしか少しだけひんやりとしていて、私は肩に掛けられたジャケットをぎゅっと掴んだ。
「ナミさんの言う通りになったね」
白い息を吐く私の横で白い煙を吐き出すサンジ。プカプカと浮かんだ煙のリングを眺めながら、一つ溜息を溢す。私のパッとしない表情の原因を探すように、サンジは煙草の火を消しながら憂鬱そうな私の顔を覗き込む。
「フッ、酷ェ顔」
「可愛くない?」
「まさか、天才的に可愛いよ」
サンジはさも当然かのようにそう言うと私の冷えた頬を撫でる。だが、その手は一瞬で驚いたように離れる。それはヒントであり、私の憂鬱の原因だ。
「つめてェ」
私の冷え切った頬に両手を添えたサンジは自身の高めの体温を分け与えるように私の頬を触る。その触り方が擽ったくて、つい身を捩ってしまう。
「ふふ、擽ったい」
「レディは冷やしちゃいけねェよ」
「この気温に文句を言ってちょうだい」
ただでさえ、冬島は得意じゃないのに雪まで降られたら冷え性の私は完敗だ。きっと、明日は女部屋のベッドで冬眠をするように一日を無駄にしてしまうのが目に見えている。サンジのあたたかな体温に触れていたくて、その腕に飛び込めば軽々と受け止めてくれるサンジ。
「寒くて嫌になるわ」
船内の窓から雪景色を覗くのは風情があって悪くない。だが、ルフィのようにハーフパンツで寒空の下を犬のように駆け回れるほど寒さには強くない。今だって降り始めた雪にブルブルと体を揺らして、サンジにへばりつく始末だ。
「ナマエちゃん、キッチンに戻ろうか。ココアでも飲んで暖まろうぜ」
「二つね」
他人が聞いたら何の数だとツッコみたくなるような私の不親切なオーダーにサンジはにこやかな笑みを浮かべたまま、かしこまりましたと綺麗なお辞儀で応えてくれる。
「分かるの」
「マシュマロ二つ、一つはくったりさせたい派」
もう一つは飲むギリギリに入れてェで合ってるかい、とサンジは自信満々な表情で私にそう尋ねる。
「ふふ、完璧よ」
「レディの好みは忘れねェよ」
飲食に関しては女性も男性もなく皆、平等だ。サンジの頭には全員の好みが全てインプットされている。それも一般の人間には分からない程度の差だったりするものもある。
「さぁ、レディ。立ち話はここまでにして、中でおれと素敵なティータイムといこうか」
紳士らしく手を差し伸べてくるサンジの手に自身の手を乗せて、淑女らしくエスコートを受ける。この光景だけ見たら海賊というよりも豪華客船で旅行する紳士淑女のようだ。だが、はためく海賊旗とココアという言葉に釣られた男性陣数人に怒鳴り散らすサンジの声と見事な足蹴りがトリップした私の脳をすぐに現実に連れ戻すのだった。