短編3
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合鍵を使い、サンジのマンションにやって来た。普段よりも少しだけ散らかったリビングを横目にちらりと見て、寝室に続く廊下を足音に気を付けながら進む。寝室の扉を開ければカーテンが閉じられ、部屋の中は昼間とは思えない程に薄暗かった。私はカーテンを少しだけ開けるとそのままベッドに近付き、シーツに散らばったブロンドを指で梳くように撫でる。開けたカーテンの隙間から溢れた光がサンジの髪をキラキラと輝かせる、眩しいというよりもその黄色はどこか暖かい色をしている。
「サンジ、サンジ」
控えめにサンジの肩を揺すりながら、二回ほど名前を呼ぶ。ここまでぐっすり寝ているとなると起こすのは気が引ける。普段はこちらに気を使わせないように平気なフリをするサンジがここまで疲労を訴えているのも珍しくて、つい不安になる。
「っ、ん……ナマエ、ちゃん?」
サンジは眩しそうに目を開けると片腕でその碧眼を覆う。私は少しだけ場所を移動して、サンジの影になるようにベッドの端に腰を下ろした。
「はっ!?待って、今日って……!」
ベッドから転げ落ちるような勢いで起き上がったサンジは枕元に転がっていた自身のスマートフォンと私を交互に見る。そして、掛け布団を勢い良く床に飛ばすとシーツの上で土下座をするサンジ。私は次から次に起こるサンジの奇行に押されて、その光景を見ているだけになっている。
「すまねェ、ナマエちゃん」
おれは君に許されない事をした、とシーツに頭をめり込ませているサンジ。その謝罪の内容にピンと来ていない私は頭上にハテナを浮かべたまま、サンジを黙って見つめている。その沈黙を怒っていると勘違いしたサンジの顔色が段々と悪くなっていき、ただでさえ、疲れが浮かんでいる顔は腐った果実のように色を失くしていく。
「怒ってないわよ、ただ何に謝っているか分からなくて」
「……デートに寝坊なんて信じられねェだろ」
「あ、そういう事ね」
私のあっさりした返答にサンジは戸惑いを浮かべている。チラチラと私の顔を見て、次の言葉を探しているようだ。
「さっきも言ったけど、怒ってないわよ」
「何で……っ、だって、だいぶ待たせちまっただろ?」
今までサンジとは数え切れない程のデートをして来た。だが、一度だって待ち合わせ場所に先に着いた事は無い。「待った?」と尋ねる私に「今着いたばかりだよ」と優しい嘘を重ねるサンジ。
「相手を待つ事って楽しいのね」
「……外、寒かったろ?」
「あなたがどんな服装で来るのか楽しみになったわ、普段のコートじゃ少し肌寒いかもしれないから」
「……スウェット」
サンジは自身の服装を見て、ガッカリした様子で肩を落とす。その気の抜けた姿すら私は愛おしいと思っているのにサンジだけが気付かない。私はその整えられていない寝癖いっぱいのブロンドに手を伸ばして、くしゃりと撫でる。
「気の抜けた姿を見せてくれるのって恋人っぽいわよね」
「ぽいじゃねェ」
ラブラブな恋人、と私の言葉を訂正するサンジ。そんなサンジにくすくすと肩を揺らしながら、私はデートの仕切り直しを提案する。
「なら、今からラブラブな恋人らしくお家デートしない?」
「……行きてェとこあるんじゃねェの?」
「サンジとなら何処でもいいわよ」
それに疲れた恋人を休ませるのだって大事な恋人の務めだ。私はサンジの白い肌に浮かんだ隈をひと撫でして、その頬に口付ける。そうすれば、サンジは私を抱き締めてゆっくりとベッドに沈む。
「……もうちょいだけ、いい?」
「夢の中でデートなんてロマンチックね」
「ん、夢ではもうちょいマシな恰好で君をエスコートするよ」
カッコつけな恋人はそう言って、私の額に口付けた。眠りに落ちるまであと数分、小さな声で交わされる甘い会話は恋人同士のそれだった。