短編3
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ハリネズミのようにチクチクとサンジを刺すのは私の鋭い言葉と可愛くない態度。反省したところで素直な言葉がすんなりと出てくる筈もなく、また私の口から針のような棘が飛び出した。好きは勝手に嫌いに変換されて、触れたいは触らないでと真逆の言葉に変わる。これは悪魔の実の能力ではなく、私の本来の性格だ。
「……可愛くないなぁ」
ぽつりと溢した本音は静寂に落ちて消えていく筈だった。なのに、目の前の男は両手を差し出して、ご丁寧に私の本音を掬い取る。
「君より可愛いものをおれは知らないよ」
「……独り言に返事を返さないで」
「だって、君がおれの大切な人を貶すから」
あれだけ好き勝手に貶してもその位置をクビになる事はないらしい。
「こーら、また余計なこと考えてるだろ」
サンジの長い指先が私の額を優しく弾く、全く痛くないデコピンが余計な事をぐるぐると考える私の脳味噌にストップを掛ける。
「余計じゃないわ」
「ありもしない未来を想像するのは建設的じゃねェよ」
サンジは私の腰にするりと腕を回すと、自身の膝の上に私を乗せる。その筋肉質な太腿はクッションにしては不出来だ、硬くて座り心地だってよくない。なのに、私はこの椅子を誰にも譲りたくない。
「硬い」
「っ、くく、野郎の足に柔らかさを求めねェで」
腰を支えてくれるその手はおいたをする様子もなく、その瞳には大袈裟なハートも浮かんではいない。先程までメロメロと私を追い掛け回していたサンジとは別人のようだ。
「それで君は椅子にどんな事を求めてる?」
「……椅子じゃなくてサンジに、」
「ん、おれに?」
「ちゃんと伝えたいの」
この声は誰のものだろうか。自信がなく、上擦った声。ただ、伝えるだけなのに一世一代の告白のようにガチガチになるのはいつもの事だ。サンジが口にする愛の言葉は私にとって難解なのだ。
「伝わってるけど」
「……さっきも嫌いって、」
「おれの都合のいい耳には愛してるって聞こえたよ」
サンジは自身の耳を指差して、穏やかに微笑む。愛してるなんて片手で数えられる程度しか言った事がない、それも朦朧としたベッドの中でだ。
「言ってない」
「君の言ってないは言えねェの間違いだろ」
恥ずかしがり屋の君の本心は裏に隠れているだけでいねェわけじゃねェよ、と平然と言ってのけるサンジには私の強がりなんて意味が無いのかもしれない。嫌いに変換された好きはいつの間にか愛してるに姿を変えて、触らないでと振り払った手は私を優しく抱く。
「……愛してるは言い過ぎ」
そっぽを向いたまま、サンジの首に腕を回した私はまだ素直になりきれない。だが、今の精一杯でこう口にするのだ。好きではあるけど、と。