短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サンジのこだわりが詰まったキッチンは広々としていて大人二人が隣同士で作業をしても互いの邪魔にはならない。コンロやオーブンの数には限りがあるが、慣れた今では大した問題ではない。サンジが赤いウィンナーを器用にチューリップに変身させている横で私はフライパンの上で卵焼きをくるくると巻いていく。王道の黄色い卵焼きも美味しいけれど、今日は彩りを足す為に変わり種を選んだ。しらすと梅しその卵焼きは以前、サンジが飲みの席で出してくれたものだ。しらすの旨味と梅の風味、そして細かく刻んだ大葉が爽やかな味を引き出す。その味に魅力されてしまった私はサンジに頼み込み、レシピを聞き出した。
「っ、くく、そんなに気に入った?」
「サンジが許してくれるなら週五でお弁当に入れたいくらい」
「君の卵焼きなら毎日でも食いてェけど」
それに今は君の卵焼きの方がしっくりくる、とサンジは冷蔵庫から昨日の夜に仕込んだきんぴらごぼうが入ったタッパーを取り出しながらそう口にする。サンジより上手く作れる自信も無ければ、自惚れてもいない。だが、毎朝こうやってサンジと並んでお弁当作りをするようになってからは料理が苦ではなくなった。サンジは出来ないを理由に私をキッチンから追い出す事も器具を取り上げる事もしなかった。ただ、一から知識を与えてくれた。
『このタイミングで隠し味を入れるとより味に深みが出る』
『あー、これは炒め過ぎちまっただけ。次はこの色になったら火を止めてみて』
ん、上出来、と花丸を初めて貰えた時は嬉しかった。自身の拙い料理が一流コックのお墨付きを貰ったような気がして、同僚であるナミに鼻高々に自慢した記憶がある。
高さの合わない肩を並べながら、大きさの違うお弁当箱に同じ具材を並べていく。まるでテトリスのように隙間を埋めていくカラフルなおかず達。菜箸に摘まれたチューリップ型のウィンナーを指差しながら、私はある疑問を口にする。
「チューリップって珍しいわね」
「愛妻弁当だからね」
「うん?」
「昨日って愛妻の日だったんだって、そんでチューリップの日」
記念日に強くこだわるサンジからすれば、愛妻の日はきっと重要な日だったのだろう。
「昨日はバタバタしてて祝えなかったからさ、一日遅れのプレゼント」
本物の花じゃねェけど、おれ達らしいかなと思って、そう言ってサンジはくすりと笑う。チューリップには愛にまつわる花言葉が沢山込められているが、料理人の料理には同じくらいの愛情が詰まっている。
「大事に食べるわね」
「おれの愛をお食べ」
サンジのお弁当箱をちらりと覗けば、チューリップ型のウィンナーは飾られていなかった。私は急いで冷蔵庫から赤ウィンナーを取り出すとサンジに視線を送る。
「私の愛が完成するまで、待ってて!」
見様見真似でチューリップ作りに精を出す私を見つめながら、サンジは幸せそうに微笑む。そして、私のお弁当箱に蓋をしながらこう口にするのだった。
「いくらでも待つよ、おれの愛しい人」