短編3
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「ちょっとだけ待ってて、ナマエちゃん」
不安を拭うようにサンジは私の頭を撫でて、笑みを浮かべる。その笑みはサンジの意思とは別に私の心をざわつかせる。二人が引き離される時、いつもその笑みが近くにあった。必ず戻ると言われたってサンジには戻らなかった前科がある。大きい別れはそれだけだが細々とした不安要素を掻き集めれば、簡単に両手の指は埋まってしまう。私はこういう場面でのサンジを信用しきれない、どれだけサンジに説得されても「嘘つき」と口にしてしまいそうになる。サンジは私達を人質にされたら簡単に自分自身を差し出して、その大事な手すら簡単に捨ててしまうのだ。
「私も連れて行って」
頭に乗ったままのサンジの右手に縋るように、私はその手に触れる。そして、時間も無いのに駄々を捏ねてサンジを困らせる。目の前のサンジの表情を見れば、困らせているのは一目瞭然だ。特徴的な眉毛はハの字に下がり、サンジの口は何かを言い掛けて直ぐに言葉を飲み込む。迷いや葛藤、それを抱かせているのは私だ。
「…… ナマエちゃん、あんまり困らせねェで」
君から離れたくなくなっちまう、と困ったような微笑みを浮かべてサンジは私の手をゆっくりと離す。その手は相変わらず優しいのにその行動は残酷だ。
「……嫌よ、また、」
「また、おれがいなくなるって?」
少しだけバツが悪そうなのは、過去の自身の行いを振り返ったのだろう。サンジは私の頬を包み込むように手を添えて、互いの額をコツンと重ねた。
「ちょっとだけ、おれを信じて?」
「ちょっとじゃなくて、ちゃんと信じさせて」
不確かな期待で揺れるのは懲り懲りだ。また、あんな事があれば私の気持ちはあの時とは比べ物にならない程に粉々になってしまう。
「おれはもう選択を間違わねェ」
周りでは銃声や激しい爆撃の音が響いている。なのに、サンジの決意とも呼べるその声はやけにクリアに聞こえた。
「手が吹っ飛ばされても脚が使い物にならなくても、君に帰る」
「……私に?」
「そう、君に抱き締めて貰えるまでが戦闘だろ」
そう言って、へらりと場違いな笑みを浮かべるサンジ。緊張感の無いそれは最初に見せた覚悟を決めたような笑みと比べれば随分とマシだ。
「遠足じゃないのよ」
「それぐらい気楽に待ってて欲しいっつー話」
サンジは私の頬をひと撫でして、遠くにいる敵を見据える。
「君はおれを腕に抱く準備でもしてて」
革靴の底を鳴らして、サンジは立ち上がる。そして、その広い背中をピンと伸ばして私にこう宣言する。三分でケリをつける、と。