短編3
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「ナマエちゃん、一生のお願い」
この通りだ、とサンジは何度目か分からない一生のお願いを無駄にする。一生のお願いというのは一度しか使えないと思っていたが、どうやら使用回数は決まっていないらしい。自身の顔の前で両手を合わせて、些細なお願い事を口にするサンジ。これは今日に限らず、それはもう頻繁に起こる。お願い事の内容は私にわざわざ頼む程のものではない、サンジ一人で解決出来るものもあれば私以外に適任がいるのでは?と思ってしまう用件の時もある。
「サンジの一生のお願いは何回あるのかしら」
茶化すようにそう口にすれば、サンジはバツが悪そうな顔をして私から目を逸らす。視線は落ち着き無く床と私の顔を往復して、また逸らされる。
「そんなに言い辛い事?」
サンジの両手を握り、視線を重ね合わせるように頭一つ分上にあるサンジの顔を見上げる。
「一生だからさ、それを積み重ねたら君とのお別れは一生来ねェかなって」
「サンジ……」
「はは、なんてね。流石に重ェよな」
冗談にしていいよ、とサンジは今の発言を無かった事にしようとするが一度聞いてしまった話を忘れる事は出来ない。頭の良いサンジは恋愛の事になると途端に不器用になる、目の前ではなく見えない未来に目を凝らして不安になるのだ。未来なんてこれからの行い次第でどうとでも形を変える事が出来るというのに不器用なサンジは最初から不安要素を全部潰そうとする。
「なら、一生離れるなってお願いしたら?」
「流石にそこまで君を縛れねェよ」
繋いでいた二人の両手がゆっくりと離れていく。サンジの冷えた指先は上着のポケットに収まり、私を手放す。
「って、おれがいい子のフリをしてる間に君は逃げねェと駄目だよ」
「ふふ、悪い子のサンジは何が目的なのかしら」
「……一生を重ねたらさ、今世だけじゃ足りねェだろ?」
だから、君の人生三周分ぐれェは独占してェなとかそんなところだよ、とサンジはとんでもないネタバラシをする。見えないどころか想像すら出来ない未来を見据えるサンジについ笑ってしまう。
「おれ、結構本気なんだけど?」
「だって、そんな来世の話だと思わないじゃない」
「今世だけじゃ足りねェもん」
君を愛し尽くせねェ、と深刻そうに肩を落とすサンジ。
「強欲」
「野望はデケェ方がいいだろ?」
己の野望に他人を勝手に巻き込むな、と言いたいところだが不安を抱えたまま俯かれるよりはマシだ。どうやら、私はサンジのそういう顔が苦手らしい。
「海賊らしくていいんじゃない」
そう相槌を打てば、サンジはポケットから片手を出して私の体を自分自身の方に引き寄せる。
「残念、今は黒足じゃねェよ」
君の彼氏のサンジくん、そう言ってサンジは海賊らしい笑みを浮かべる。一生のお願いなんてまどろっこしい真似はやめて、これぐらい豪快に私を攫っていけばいいのに。
「それじゃ、私も恋人に一生のお願いをしようかしら」
「何なりと、レディ」
「来世は私から離れちゃ駄目よ」
サンジが口にしないのならこちらから縛ればいい、私の中ではもうとっくにサンジの一生に振り回される覚悟は出来ていた。