短編3
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痛ェ、と傷一つ付けられていない胸を押さえているのはこの国の第三王子だ。本人はその痛みを一種の不具合だとでも思っているのか、首を傾げ、直ぐにその痛みに苛立ちの表情を浮かべる。科学ではどうにも解決出来ない胸の痛みを忘れる為に戦場で暴れ回ってみても相変わらず痛みは治まらないどころか、酷くなる一方だ。
「サンジ様」
この女はただのメイドだ。だが、他のメイドのように足蹴にしても嬲ってもサンジから目を逸らさない奇妙な女だ。死ぬか、辞めるか、そんな賭けをした幼少期とは違って今のサンジはメイドを使い捨てのように思っていた。なのに、このメイドを前にすると凍った心臓に血が通うような気がした。
「お前はその他大勢にはなってくれるなよ」
無意識に出たサンジの言葉に彼女はワケも分からず返事をする。直ちに返事を寄越さなければ、この兄弟達に何をされるか分からないと身体が理解しているからだ。お貴族様に逆らっても良い事は無いと彼女は分かっている、心を壊した同僚、死を願う同僚の姿を見ていれば自然と上手に生きられるようになる。それに彼女をいつも指名するのは兄弟の中でも安全な三男だ。安全と言ったって機嫌が悪ければ足蹴にされ、女の顔に平気で靴底の痕を付けるような男ではあるが一番自身を人間として扱ってくれるのはサンジだという安心感があった。
「……ったく、痛ェな。どうなってんだ、この体は」
シャツ越しに胸を押さえるサンジは心配そうに自身の様子を窺う彼女を黒髪の隙間からギロリと睨む、その姿は孤高の鴉のようだ。
「お前を見ると胸が潰れたように痛む」
「……私、ですか」
彼女の細い手首を掴むサンジの手には一切の配慮が無い。つい、彼女の口から痛みを訴える声が溢れる。今までのサンジだったら力を緩める事も彼女を気遣うように手を離す事もしなかった。なのに、サンジは彼女の手首から手を離すと気まずそうにスラックスのポケットに手を入れて彼女から視線を逸らす。その口から謝罪が出る事は無いがサンジのらしくない態度に彼女は目を丸くして、バレないように口元を少しだけ緩める。
「……それぐれェ痛ェって事だ」
お前みたいな貧弱と一緒にされるのは御免だが、と聞いてもいない言い訳を重ねるサンジ。人間らしくない非道な男の真っ白な肌に不釣り合いな赤が浮かぶのだった。