短編3
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味気ないスマートフォンのアラームで起きる朝は嫌いだ、彼のマンションに泊まった翌日は特にそう思う。ホテルで提供されるようなハイクオリティな朝食に起こす気があるのか分からない優しいサンジの声が目覚まし代わり。毛布を被って二度寝をしようとする私を毛布ごと捕まえて戯れつくように抱き締めてくるサンジ。毛布の外から悪ガキのようなサンジの笑い声が聞こえてくる、そんな朝を経験した翌日に冷たいシーツの上で初期設定のアラーム音で起きるのは少しだけ寂しい。夜だってそうだ、おやすみというサンジの声が恋しくなって無理矢理ベッドに潜り込んでも眠気はやって来ない。おはようと寝惚け眼を擦ってみてもサンジの代わりに味気ないアラームがひとりぼっちの静かな朝を邪魔するだけだ。
あなたがいないと嫌だ、そんな子供のような我儘を許される年齢はとっくに追い越している私は一人寂しさを抱えながら、週一、二回程度のお泊りを楽しみにしていた。サンジは週一では足りないと言っていたがこれ以上増やす事になれば私は自身の独り暮らしのマンションに戻れなくなる。
「なァ、ナマエちゃん」
「ん、どうしたの」
珍しくスマートフォンで何かを探していたサンジは私の目の前に画面を差し出す。その開いたページには部屋の間取りやマンションの外観が載っている。
「引っ越しでもするの?」
「君次第かな」
「私?」
サンジの引っ越しに口を出す気はない。それに載っているページに記載されている住所は私が住むマンションの近くだ。
「今よりも行き来がしやすそうだし、いいんじゃない?」
「おれは君を帰したくねェらしい」
テーブルにスマートフォンを置いたサンジは私を見つめて、へらりと笑う。
「おはようからおやすみまで君のサンジくん付きの物件なんてどう?」
「……同棲?」
「君が良ければだけど、おれはそのつもりだよ」
する、します、と前のめりで了承する私にサンジは安心したように息をついた。断られなくて良かった、と顔に描いてあるサンジは未だに私からの好意に鈍い。お互いの距離を埋めるようにサンジは二人の間に手を伸ばす。そして、私の手を引いて自身の胸元に抱き寄せる。
「おはようって言って」
「サンジも言ってね」
「アラームじゃなくて、君の声で朝を連れて来て」
「ふふ、先に起きちゃうくせに」
サンジは空いた手で私の頭をポンポンと撫でながら、甘い理想を口にする。おはようのキスをして、二人でテーブルを囲んで、戯れるように仕事に行く準備をする。そんな、くすぐったい提案をしてくるサンジについ笑みが溢れる。
「夜になったら一緒のベッドに入っておやすみのキスをしようか。そして、静かな夜を二人で越えて、幸せな朝をはじめよう」
物件探しよりも先に決まった新生活の甘いルーティン。この約束があれば、味気ないアラームも冷たいシーツも暫くは我慢出来るような気がした。