短編3
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究極の二択だね、とサンジは料理をする手を止めずに私の話に相槌を打つ。テキパキと手を動かしながら、忙しく動くその背中が好きだ。タイマーなんて掛けていないのに迷いなくベストのタイミングで仕上がっていく料理の匂いに鼻をクンと鳴らしながら、私は究極の質問をもう一度サンジに投げ掛ける。
「永遠の命と永遠の愛、あなたならどっちを選ぶ?」
「っ、くく、手に入れる方法でも見つかったのかい?」
「残念ながらまだよ、オールブルーよりきっと難しいわ」
この質問に意味は無い、答えだって十人十色だ。正しい選択なんて無い。
「どっちを選ぶのか気になっただけよ」
サンジは鍋の火を止めるとこちらを振り返り、エプロンの紐を外す。そして、外したエプロンを椅子の背凭れに掛けると私の横に腰掛ける。
「あら、料理はいいの」
「少しだけ寝かせると味が沁みて美味ェんだよ」
楽しみにしてて、とサンジは目尻を下げて私に笑い掛ける。今日はつまみ食いの常習犯が島に下りているせいか、キッチンには穏やかな空気が流れている。その穏やかさはサンジ本来が持つ空気感と重なり、優しく日常を包み込む。
「さっきの答えだけどさ、おれは命かな」
「愛一択だと思ってた」
まさかの答えに私は目をまんまるにしてしまう、私の頭の中ではサンジと愛はイコールで結ばれている。酷い偏見だとも思うが普段のサンジを見ていれば、そういう考えになるのも仕方ない事だ。
「愛は願わなくても永遠だ、誰かにお願いするものじゃねェよ」
君への愛が途切れる日なんて悪夢みてェだ、とサンジは表情を変えずにそう口にする。だが、サンジが永遠の命を選択したところで私の命は永遠を約束されていない。
「……私が永遠を願わなかったら一人になるわよ」
「君がもう一度現れるかもしれねェから」
「随分、楽観的ね」
「また、あの衝撃を味わえると思ったら長い人生も悪くねェよ。胸が潰れるような運命の出逢いなんてもう味わえねェもん」
そんな大袈裟なと言えたら良かったのだが、サンジとの出逢いは私の中でも十分衝撃的だった。信用ならないとすら思っていたのにあれよあれよと絆され、永遠の愛を願いたくなる程に夢中になってしまった。
「それで君はどっちを選ぶんだい?」
「あなたが永遠を生きるなら私も命を選択しなくちゃ」
「おれが寂しくて泣かねェように?」
「そうよ、あなたの涙で島が沈んだら大変だもの」
慈悲深ェナマエちゃんも素敵だ、と巻き付いてくる腕は寂しさを誤魔化す為だ。普段の戯れつくような抱擁とは少しだけ違ったその腕の強さに母性を擽られる。
「……永遠なんて無ェけどさ、君を想う日々はおれの中で永遠のように長ェ。ちっぽけな脳味噌をフル稼働して君の事を四六時中考えてる」
「キザねぇ」
「お気に召さねェ?」
さらりと髪を耳に掛けられて、甘い視線が交わる。そして、そのまま頭の後ろに手が回され、ゆっくりと距離が縮まる。
「一生、聞いていたいわ」
永遠なんて都合の良い矛盾だ、決して手に入らない。なのに、この愛はどうやら違うらしい。サンジの頬に手を添えたまま、私は永遠に触れた。