短編3
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見張りをしているサンジの背後に近付く足音。コツン、コツンとハイヒール特有の足音が見張り台に響く。サンジはその足音の音にピンときたのか、勢い良く顔を後ろに向けると犬のように見えない尻尾をパタパタと振る。
「ナマエちゃん!」
はぁい、と彼女はヒラヒラと片手を振り、サンジに近付いてくる。だが、もう片方の手には度数の高い酒の瓶が握られている。彼女は酒で陽気になっているのか、サンジの片目を覆い隠す金髪を手で払う。
「大将、やってる?」
「こりゃまた、随分出来上がっちまって……」
サンジは苦笑いを浮かべながら自身の水の入ったペットボトルを彼女に差し出す。飲み掛けだが無いよりはマシだろうと判断した結果だ。そして、彼女の手に握られたままの酒瓶とペットボトルを交換するサンジ。だが、酒瓶を受け取ったサンジはある事に気付く。酒瓶の中身が全く減っていない事もそうだが自身の肩に凭れ掛かり、鼻歌を溢している酔っ払いから全くアルコールの香りがしない事に気付いてしまった。
「サンジ、抱っこして」
ん、と手を大きく広げて抱っこを強請る彼女。普段の彼女は甘える側というよりも甘えさせる側だ、サンジは誰よりもその恩恵に与っている自覚がある。
「おいで、ナマエちゃん。今日は冷えるからブランケットを掛けようか」
彼女を膝に乗せて、その細い腰を抱き寄せる。そして、彼女の体を冷やさないように自身と彼女の体にブランケットを巻き付けるサンジ。
「次はちゅーして、酔っちゃうぐらいのやつ」
舌っ足らずな話し方に少しだけ幼い口調。そして、アルコールを摂取したとは思えない普段と変わらない低体温。ここまで登って来たしっかりとした足取り。それらをパズルのピースのようにはめていけば、答えは簡単に出る。
「そんな演技しなくてもいいのに」
「へ」
「素面だろ、ナマエちゃん」
サンジはそう口にすると彼女が逃げ出さないように回していた腕に少しだけ力を入れる。そして、腕の中でオロオロと迷子のような表情を浮かべている彼女の顔を覗き込み、優しく微笑むサンジ。
「酔っちゃうキスしちゃう?」
「……らしくないって思わないの」
「レディは万華鏡だ、見えてる一面だけが君じゃねェよ」
回せば、もっと知らねェ君に会えるんだろうね、とサンジは彼女の不安を取り除く。くるくると表情を変える女性は美しい、沢山の面を持っている君は愛らしいと口にするサンジ。
「だから、フリなんて必要ねェよ」
「……ねぇ、サンジ」
「ん、何だい?」
「朝までここにいていい?」
サンジの首に腕を回して、彼女は先程よりも控えめな声で精一杯の甘えを見せる。チラチラとサンジの様子をうかがうように視線を往復させる彼女は酔っ払ってもいないのに白肌を赤く染めている。
「おれが断ると思うかい?」
「思わない、かも……?」
「っ、はは、何で疑問形なの」
サンジはそう口にすると、彼女のお願いをすぐに了承する。そして、横に置いていた酒の瓶のラベルを指でなぞる。
「君には教えねェといけねェし」
「何を?」
「こんなの必要ねェってぐらい甘やかさせて、レディ」
甘える君と甘やかすおれがいれば酒なんて邪魔なだけだよ、とサンジは普段よりも遠慮の無い口付けを彼女に落とす。口付けに酔う、その言葉が今の二人には合っていた。