短編3
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「つわりは病気じゃないのよ、サンジ」
「……はい」
床に正座しているサンジは彼女が動く度に過剰な反応をみせる。今だって彼女が腰に手を当ててソファから立ち上がれば、すぐに立ち上がり彼女の腰を支える。
「病気じゃないのよ?」
「これは無意識っつーか……その、癖みてェなもんで……」
「数週間前までそんな癖は無かった筈よ」
彼女はそう言って心配症の旦那の腕から抜け出す。だが、半歩後ろを陣取って彼女の後を雛鳥のように着いて回るサンジから逃げる事は出来そうにない。
「あ、ナマエちゃん、そこ段差あるから抱っこで、」
「数ミリの段差よ、ほぼ平ら」
段差とは呼べない数ミリを楽々と越える彼女に後ろから慌てたサンジの声が飛んでくる。シーッ、と顔の前に人差し指を立てる彼女にサンジは一瞬だけ黙り込む。だが、すぐに心配の気持ちが顔を出してお節介とも取れる心配事を口にしてしまう。
「ナマエちゃん、やっぱり無理しねェ方がいいんじゃねェかなァ」
「無理ならちゃんと無理って言うわ」
「でも、まだ悪阻だって酷いだろ?」
「……チョッパーだって個人差があるって言ってたでしょ」
私は人より少し重いだけよ、と彼女は言うがサンジの目から見た彼女は妊娠発覚以前よりも細くなった。少しだけ悪阻が重いで済まされる程、簡単な問題ではない。キッチンから香るサンジの料理の匂いすら今の彼女を苦しめる一部になる、ナミが育てた蜜柑やサンジが剥いたフルーツぐらいしか今の彼女が口に出来るものはない。
「失礼、レディ」
サンジはそう声を掛けると彼女の軽くなった体を抱き上げる。未だ膨らみを見せない彼女の腹には小さな命が宿っている。その命の事を考えれば、ここでジタバタと駄々を捏ねるわけにはいかないと彼女は大人しくサンジの腕に抱かれる。
「……過保護」
「だって、おれは外からしか護れねェもん」
腹の中で命を護るのは君だ、それも長ェ間、とサンジは口にする。そして、彼女の腹に視線を落とす。
「サンジ……」
「野郎だから一生、分からねェんだ。今、君が苦しんでる悪阻も出産の痛みも何もかも全部だ」
「それを責める気は無いわよ」
「ただ、おれが嫌なだけだよ」
君と親になるスタートは一緒なのにおれは何も出来ねェ、精々こうやって障害物を蹴散らすぐれェだ、そう言ってサンジは来た道を戻り、彼女をソファに座らせる。
「良いパパで良かったわね」
「へ」
「この子のパパと私のダーリンは最高って話」
最近は煙草だって吸ってないでしょ、と彼女は人差し指と中指を立てて煙草の真似をする。匂いに敏感になってしまった彼女を気遣って男部屋のロッカーの奥深くに煙草とジッポをしまい込んだサンジ。
「おれが出来ることなんてこれぐらいさ」
「ふふ、私がしなくちゃいけないことまで取っちゃ駄目よ」
「……そんなに過保護かい?」
「そのうち、歩くのすら禁じられそう」
「その手があったか」
手をポンと叩き、彼女の言葉を現実にしてしまいそうなサンジ。呆れた表情で彼女は自身の腹を撫でるとサンジの暴走を止める方法を考えるのだった。