短編3
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この数日間の重なった休暇は偶然ではない、以前から二人で計画して私の実家にアポまで取って準備した大切な数日間だ。両親は私の少しだけ上擦ったような緊張した声色に突然の訪問の理由を察したのだろう。電話の向こうで、パパにも伝えておくわね、と妙に弾んだ声を出した母には全てお見通しなのだろう。二、三言のやり取りを終えて私は通話を切る。そして、私よりも緊張した顔をして横で正座で待機していたサンジは床に崩れ落ちる。
「……緊張したあああ」
「本番は明後日。その調子じゃ保たないわよ?」
「君も緊張してた」
あなたの緊張に釣られたのよ、と私は崩れているサンジの身体に体重を掛けるように寄り掛かる。そうすれば、サンジの片腕が私のお腹に回り二人の距離がグッと縮まる。
「髪の毛、黒染めしようかな」
「なぁに、今更」
「だって、チャラく見えねェ?」
自身の金髪を掴むとサンジは心配そうに私の顔を見上げる。地毛であるサンジの金髪は根元から綺麗に蜂蜜を溶かしたような色をしている、ブリーチいらずのその髪は傷んでもいなければ、枝毛の一本すらない。
「綺麗な髪が傷んじゃうから駄目」
「……悪印象にならねェかな」
「あの人達なら大丈夫よ」
きっと、娘である私をそっちのけでサンジに構うのがオチだ。サンジくん、サンジくん、と母に付き纏われて、サンジくん、サンジくん、と父に構い倒されるのだ。
「褒められた人間でも褒められた人生を送って来たわけでもねェけどさ、君の大切な人には好かれてェって思っちまうんだよな……」
「それこそ問題ないわよ」
「はは、随分と言い切るね」
まだ、確信を持てないのかサンジの表情はどこか不安げだ。そんなサンジの頬に手を添えて、私はくすりと笑みを浮かべる。
「私の旦那さんになる人はこんなに素敵なんだもの、何の心配も無いでしょ?」
「……ナマエちゃん」
サンジは一つ頷くと、目を逸らす事なく私を見つめる。そして、私の手に自身の手を重ねてこう口にした。
「おれ自身を信じてみるよ、君が認めてくれたおれを」
――――――
見慣れた実家の筈なのにサンジという存在が一人加わるだけで何処か別の場所のように感じられる。客人を意識したのか花瓶に飾られた花、うちはそんなお上品な家では無かった筈だ。そして、両親に挟まれ、私の過去のアルバムをパラパラと捲るサンジ。あそこ一帯だけが花畑のようだ、ふくふくと幸せそうに笑う顔もその脳内も花が舞っているようだ。
「こっちはね、小学校の入学式」
人見知りが酷くてね、大変だったの、といらない情報をサンジに分け与える母。そして、左側からは父の長い補足が付け加えられる。
「ママさん……っ、天使をこの世に生み落としてくれてありがとうございます」
大袈裟なサンジのリアクションを見ても二人は普段の私のように笑っているだけだ。こんなところで血の繋がりを感じる事になろうとは思ってもいなかった。
「はは、天使か」
「はい、この世の奇跡のような存在だと常々思っています」
「もう、サンジ恥ずかしいわ」
だが、流石に両親の前で大袈裟な称賛を浴びて平気な顔が出来るほど肝が据わっているわけではない。私はサンジの手からアルバムを取り上げて顔を隠す。きっと、向こうの三人はニヤニヤ笑っているのだろう。私はアルバムを少しだけ下に下げて、視線を正面に向ける。だが、そこにある三人の顔は想像していた表情とは程遠い温かなものだった。そして、そこにいるサンジはもう既に家族の一部のように私には思えた。
『お嬢さんをくださいとは言えません』
『大切な宝をお二人から奪うような事はしたくない』
『なので、おれを一員にしていただく事は可能でしょうか?』
『彼女を愛おしみ、護っていく事。そして、幸せにする事をお許し下さい』
先日、サンジは私の両親にこう言った。美しいお手本のような姿勢で深々と頭を下げて、畳にその金髪を広げた。きっと、両親は「娘さんをください」という台詞が来ると思っていた筈だ。私だって、この時までそう思っていた。だが、サンジはこんな時まで酷く優しかった。私の大切なものを同じように愛し、大切にしてくれる。そんなサンジを両親が追い返す筈もない。両親は直ぐにサンジを一員に迎え入れた、家族の一員としてだ。そして、気付いた時にはサンジを両親に盗られていた。想像通りの流れに私はつい笑ってしまう。家族に受け入れられたサンジに対してか自身と同じようにサンジにメロメロになっている両親にか、きっと、両方に対してだ。
「ナマエちゃん?」
「んーん、何でもない」
私はそう言って、サンジの手にアルバムを戻す。また、その顔が見れるのなら照れ臭い称賛の一つや二つ受け入れよう、と。