短編3
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ウェーブが掛かった金色の髪を光沢のあるリボンでゆったりと結べば、それはそれは美しい人外の完成だ。人外と言ったってハロウィンの仮装でしか無いがこの男の見てくれは人間にしては随分と美しいと思う。本人は居心地が悪いのか、背中のマントを揺らしながらソワソワと自身の全身を鏡に映す。
「……こんなオッサンが仮装しても需要なんてねェんじゃねェかなァ」
「私にはご褒美だけど?」
微笑むサンジくんの口元には鋭い牙が覗く、元々の歯と並べてみても仕上がりは自然だ。瞳の周りを囲んだアイシャドウも碧眼を際立たせるアイテムとして充分に仕事をこなしてくれている、年齢のせいでやや窪んでいる目元は色をのせるだけで雰囲気が変わり、やけに色気がある。
「君が楽しそうな事だけが救いだよ」
「サンジくんはあんまりハロウィンとか興味無い?」
一人で突っ走っている自覚はある、こんな良い男に理想の仮装をして貰える機会なんて滅多に無い。だから、年に一度だけハロウィンに便乗して着せ替えごっこに持ち込むのだ。サンジくんに頼めば、年に一度とは言わずに仮装と私服の頻度が逆転してしまう展開が訪れそうでイベント時にしか頼めない。
「昔はレディの仮装が拝めてラッキーって思ってたけど、今は君の仮装が拝めてラッキーって感じかな」
サンジくんの吸血鬼の衣装と対になったような私のドレス。裾は引き摺ってしまう程に長く、腰はキュッと絞られたデザインをしている。君になら血を搾り取られてもいい、そう言ってシャツの襟元に指を入れて自身の白い首筋を撫でるサンジくん。
「サービス過多」
「っ、くく、そんなに今日のおれ格好良い?」
口元を品良く手で押さえて、くつくつと喉を鳴らして笑うサンジくん。伏目がちになった目元には髪色と同じ色をした長い睫毛が影を作る。
「……とっても」
魅力的よ、とサンジくんの胸元で揺れる髪に触れる。
「私がヴァンパイアだったら真っ先にサンジくんを不老不死にするぐらいには」
「残念、もうシワシワのオッサンで悪いね」
不死はどうにか頑張ってみるよ、と戯けるように肩を竦めるサンジくんは馬鹿げた非現実的な願いを有言実行してしまいそうな雰囲気がある。
「サンジくんなら出来そう」
「君の最期に付き合って君が生まれ変わるのを待つよ」
サンジくんの唇に薄く引かれた紅が私の手の甲に滲む。
「……もっと、付けて」
順当にいけば、間違いなくサンジくんは私を置いていく。二周り程の歳の差を気にしていないわけではない、ただ、忘れようとしているだけだ。現実逃避と言えばいいのか、いつか訪れるお別れから視線を逸らしてありもしない空想を語る私達は吸血鬼にはなれないし不老不死にもなれない。
「お望み通りに」
この肌に触れる尖った歯が本物であったなら良かったのに、そして白肌に滲む紅が私の血に変わればいいのに。私達を分かつ終わりなんて来なければいい、と一人ありもしない非現実を願った。