短編3
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「私の誕生日?あ、待って、もう過ぎてるじゃない」
ハッピーバースデー、私、とハッピーバースデーの曲に合わせて呑気に自分自身を祝う彼女の横でサンジは椅子からひっくり返る。不覚と言えばいいのか、自身の情報収集の甘さに腹が立つ。クッソ、と床を叩いて悔しがったって彼女の誕生日は戻ってこない。それに次の誕生日といったってあと一年近く先だ。
「……祝いたかったなァ」
「ごめんなさい、あんまり誕生日に頓着してるタイプじゃないから今の今まで忘れていたの」
「いや、おれが聞くのが遅かっただけだよ。君の責任じゃねェよ」
そう口にしているがサンジの顔は中々晴れない。あと数日、早く聞いていれば当日にお祝いする事だって可能だった筈だ。そんな可能性を考えて、また悔しそうに唇を噛むサンジ。
「……食事とケーキとおれぐらいしか用意出来無いんだけど、まだ間に合う?」
プレゼントを調達出来るような島はまだ先にある、数日中には着くと思うが麦わらの一味はハプニングに見舞われやすい。それは毎回決まって特大のハプニングだ。買えるかの前に島に寄れるかの心配がある。
「毎日が誕生日みたい」
「?」
「美味しい食事にケーキ、甘くて優しい恋人」
昨日だって一昨日だって、その前の日も私はサンジに全てを貰っていたわ、と彼女はサンジのしょぼくれた顔に手を添えて目線を合わせる。これは嘘や偽りでも、その場しのぎの言葉でも無く、彼女の本音だった。
「今日も祝ってくれる?」
「……っ、勿論!」
彼女の手を両手でギュッと包み込み、サンジは何度も頷く。彼女にはサンジのお尻に生えた見えない尻尾が左右にブンブンと揺れているように見える。一味に仲間入りして数カ月が経つが、サンジは毎日知らない感情を教えてくれる。
「生まれてきてくれてありがとう、ナマエちゃん」
「……そんな事、はじめて言われた」
「おれの為に残ってたのかもね」
だって、君の存在に一番感謝してるのはおれだもん、と恥ずかしげもなく口にするサンジ。
「だからさ、来年は君が忘れててもおれがちゃんと覚えてるよ」
「来年はきっと大騒ぎね」
「一週間前からカウントダウンしたっていい」
「流石に贔屓だって怒られるわよ」
贔屓と特別は違ェ、と言い切るサンジに彼女はくすくすと肩を揺らしながらサンジの肩に頭を乗せる。
「普通でいいの、普通で」
「……ウソップに頼んだら花火とか上げてくれねェかな」
「お馬鹿」
「男はいつだって好きなレディの前では馬鹿だよ」
そんな馬鹿な男は君を喜ばせる為なら何だってする大馬鹿者だ、と肩に腕を回して彼女の髪に口付けるサンジ。
「厄介な人に捕まったわね」
「っ、くく、それこそ今更だ」
「……厄介な恋人が祝ってくれるなら花火もプレゼントもいらないわ、あなたがリボンをぐるぐるに巻き付けて私に会いに来てくれるだけでいいの」
可愛くリボンを蝶々結びにして、おれがプレゼントと馬鹿みたいな台詞と一緒に登場してくれるだけでいい。そしたら、彼女は最高の一年を約束されたようなものだ。
「リボンはピンク?赤?それとも、白?」
「黄色に映えるのは白かしら」
そう言って、二人は額を合わせてくしゃりと顔を綻ばせるのだった。
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