短編2
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はじめて自分の人生に運命が落ちて来たと思った。この小さな体目掛けてビビビッと稲妻が落ちて、ストンと恋に落ちた。
「今日も好きだったよ」
「はいはい、知ってるよ」
サンジくんはもう私の告白に飽き飽きしているのか、雑な返答を寄越すと玄関から私を追い出す。この告白は私が小学生だった頃から続いている、毎日、毎日、雨が降ろうと台風が上陸しようと私はサンジくんの家に行くのをやめない。行くと言ったって距離で言えば一歩だ、サンジくんの家の玄関を出れば、私の家の扉が見える。お向かいさん歴七年、片思い歴も七年、毎日こうやってサンジくんの家を突撃して報われないアイラブユーを伝えに行くのだ。サンジくんの中で私は未だに子供なのだろう。当時と対応が変わらないまま、関係だって何も変わりはしない。
「……また来たのかい」
サンジくんの家のソファに寝そべりながら、私は仕事から帰ってきたサンジくんをお迎えする。
「合鍵くれたのはサンジくんだよ?」
「何度言ったって廊下で待つおバカさんがいるからだよ」
誰の事だっけ、と誤魔化すように目を逸らせば、サンジくんの大きな手が私の頭の上に乗る。
「君以外、知らねェな」
追い出す気は無いのかサンジくんは私の隣に座り、テーブルに置かれた灰皿に視線を落とす。そこには私が吸った一本がある。
「……まだ早ェんじゃねェの」
「ブレザーで煙草吸ってたサンジくんが言うの?」
耳が痛ェ、そう言って自身の耳を両手で塞ぐサンジくん。
「煙草って不味いよね」
「なら、何で吸ってんの」
サンジくんは私の手に握られた煙草のケースを取り上げるとそう問い掛けてくる、重なった視線は何故か少し怖かった。
「サンジくんに追いつきたいから」
「……別の男に教わったんじゃねェの」
「何の話?」
「こないだ見たよ、君と知らねェ男の告白現場。若ェって素晴らしいよな、オッサンになっていくおれと同年代の野郎だったら選択肢なんて一つだ」
話を遮るように私はサンジくんの名前を呼んだ。元々、選択肢なんて一つだ。私の運命は今も変わらずに目の前にいるこの人の名前をしている。
「……おれ、それ見てさ、嫌だって思ったんだ」
ナマエちゃんはおれのなのに馴れ馴れしくすんなって蹴り飛ばしそうになった、とサンジくんは自嘲する。顔の上に腕を置いてソファの背凭れに寄り掛かるサンジくんは普段とは違い、まるで年下にも見える。
「そんなこと言われたら勘違いする」
「……してよ」
そう言って腕を下に退けて、こちらを見つめてくるサンジくん。こんな展開を予想していなかった私は少しだけ後ろに後ずさる、もうこんな展開は二度と来ないのかもしれないのに自身がこちら側になると身体が戸惑ってしまう。
「気付いたら、もう駄目だね」
「?」
「君に好きって言いたくて仕方ねェ」
サンジくんは七年分の返事だと言って私がギブを言い渡すまでその口を閉じようとはしなかった。
「明日はおれが行くよ、君に好きを伝えに」
はじめて自分の人生に運命が落ちて来たと思った。この小さな体目掛けてビビビッと稲妻が落ちて、ストンと恋に落ち、気付いた時にはもう手遅れだ。