短編2
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舞い上がっていた気持ちは一件のメールで急速に萎んでしまった。下を向く向日葵のように首を折り、私はそのままソファに座るサンジの腹に顔面ダイブをする。頭上から潰れた蛙のようなうめき声が聞こえたが今の私には気にしている余裕なんてない。
「……ナマエちゃん?」
「サンジは私が嫌いなんだ」
「何でそういう考えになったかは分からねェけど死んでもありえねェよ」
なら、何で、と理不尽に当たり散らす私の頭を撫でながらサンジは私に理由を尋ねる。
「君の機嫌を損ねた原因はおれかい?」
今日のおれは良い子じゃなかった?とサンジはくすりと笑いながら私の耳の縁を親指でなぞり、反応を待っている。今、上を向いたらサンジの優しい表情が視界に入り、きっと泣いてしまう。
「……レストラン、ビックリさせたかったの」
「レストラン?」
夏の間だけ開催されるサンジのレストラン。毎年、毎年、SNSでサンジの写真がタイムラインに流れて来る度にハンカチを噛みそうになった。仕事という名目でやっている筈だが、その時期のサンジはモテにモテまくって恋人の目から見ても大変浮かれている。鼻の下は伸び、目はハートになり、空中をスキップしそうな勢いで有頂天になっている。
「私だってサンジにお皿にメッセージ書きたかった」
サンジが顔を真っ赤にして倒れてしまうくらいの熱烈なラブレターを書きたかった、普段言った事が無いような台詞を書いてサンジを慌てさせたかった。
「……あー、今日が結果だったのか」
「もう、本当無理。何?愛が足りなかった?」
厳正なる抽選を行なった結果だと言われても悲しいものは悲しい。そして、こうやって八つ当たりしている自身が虚しくて余計に気分が落ち込む。
よいしょ、とサンジは私を抱き上げて膝に座らせる。向かい合うような体勢でサンジの腕が腰に回され、視線が重なる。
「申し込みしてくれたんだね」
「……うん」
髪に隠れていないサンジの片目が穏やかに緩む、目尻に寄った皺はそのうちサンジの肌に刻まれてしまいそうだ。それが幸せの象徴のようで私はその皺を見る度にきっと毎回こういう気持ちになるのだろう。
「ありがとう」
「でも、ご用意されなかったもん」
また、拗ねたような声が自身の口から溢れ落ちる。
「……おれのせいかも」
「どういう意味?」
「君が来たら素のおれになっちまうもん、今までが演技ってわけじゃねェけどさ、君に対しては何つーか……甘くなっちまうんだ、顔も声も態度も全部」
だから、バレちまうと思うんだよね、そう言ってサンジは顔の前で両手を合わせる。
「おれのせいですまねェ、ナマエちゃん」
厳正なる抽選ではなくサンジの私情が大いに含まれた抽選結果、実際はただの運だろう。だが、正面にいるサンジの表情に嘘は見えない。事実は別としてこれは優しい嘘ではなく、サンジの本心なのだろう。
「ふふ、なら次はお家でやって」
私の為だけに笑って、ハートを作って、チョコレートで書かれた愛のメッセージを受け取って、そして口で返事を頂戴、と我儘放題にリクエストをすればサンジは大きく頷いて私の両手をぎゅっと握った。
「喜んで!」
暑い夏が終わったら私のスマートフォンのフォルダにはサンジの写真が沢山保存されているのだろう、甘い顔をしたファンサービス抜きのサンジがフィルター越しに私に微笑みかける。