短編2
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元々、着飾る事は好きだ。着飾る事は誰かを喜ばせる為ではなく自身のモチベーションを上げる為にしている、以前の私だったら間違いなくそう断言していた筈だ。
「いい色だね」
乾いた爪に目を細めながらサンジはそう口にする。些細な変化に気付いて、その時々で褒め言葉を変えてくるサンジに私の心はふわふわと舞い上がる。男の為では無く自身のモチベーションの為に始めたネイルアートはいつしか二つの理由が出来ていた。今ではモチベーションよりもサンジの口から「可愛い」という言葉を引き出す方が私にとっては何倍も重要なのだ。
テーブルに広げたネイルポリッシュの中にサンジのイメージカラーであるブルーを置いた、いつの間にか私達の間で決まっていたイメージカラー。サンジが青でルフィが赤でゾロが緑。まるで戦隊ヒーローのようで笑ってしまう、私達はヒーローではなく世間で言えば悪に属するというのに何という皮肉だ。私はネイルポリッシュの蓋を指でトンと押しながら、ふと後ろを振り返る。そこには先程から長い足を投げ出してすやすやと穏やかな寝息を立てているサンジがソファで眠っている、疲れているのか起きる気配は無い。私はソファから飛び出した長い足の先を見てある事を思い付く。
「……足だったらいいかしら」
夏だからと張り切って塗った自身の足の先にもブルーが広がっている、光を集めて細かいラメがキラキラと光る様子は陽の光を集めた海のようにも見える。これは私の独占欲だ、同じ色に染まって同じ秘密を革靴の下に隠し、二人だけで共有したいという子供みたいな我儘だ。
起こしてしまわぬように片足を固定し、自身の膝の上を台のようにして私は小指から一本ずつ色を重ねていく。慎重に普段よりも時間を掛けて塗ったそれはサンジの爪先を美しく彩る、その横に自身の乾いた足を並べれば同じ海がそこには広がっていた。お揃い、なんてこっ恥ずかしい独り言を吐いて、緩む口元をどうにか抑えようと下唇に軽く歯を立てれば頭上から甘い声が降ってくる。
「独占欲って思ってもいいかな?」
突然のサンジの声にビクッと肩を揺らせば、サンジはソファに片手をつき起き上がる。まだ乾いていない足元を気にしながら、私に手招きをすると私を膝に招き入れる。一部始終を見られていた私は抵抗しても無駄だと思い、居た堪れないような顔をして大人しくサンジの膝に座る。
「気分がいいね」
君のものって言われてるみてェ、とサンジは満更でもない顔をして互いの足元に視線を向ける。大きさの違う爪が同じ色に染まり、互いのものだと主張している。
「……何で気付くのよ」
私の独占欲は直ぐに見破られてしまう、そして否定する事なくサンジに受け入れられてしまうから困りものだ。
「おれが君をそうしてェからかな?」
他人事のようにとんでもない爆弾を寄越してくるサンジ。自身の腹の前で組まれたサンジの手をペシペシと叩きながら私は、もう、もう、と失ったままの語彙をぶつける。だが、その手は直ぐにサンジの右手に取られてしまう。
「乾くまでいい子にしようね、ナマエちゃん」
おれの青が取れちまうよ、そう言って爪を避けるように私の手にキスを贈るサンジ。サンジの甘い悪戯に乗せられた私は自身の爪が乾いている事は言わずにその甘い時間に身を委ねるのだった。