短編2
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人にばかり愛を与えるサンジが嫌いだ、与えた愛が自身にも返ってくる事を知らないサンジはもっと嫌い、大嫌いだ。
「好きだよ」
「ありがとう、レディ」
「本当に好きなのよ?」
「身に余る光栄だよ」
私の好きを受け止める気は無いのだろう。サンジは社交辞令の見本のような返事を返し、その場から素早く離れようとする。
「っっ、もう我慢しない!」
さっさと前を行こうとするサンジの腕を自身の方に引っ張り、その腕にぎゅっと自身の腕を絡ませる。わざと胸を押し付けて女である事をアピールしながら私は再度、啖呵を切った。
「私、あなたの好きなところを百個言えるんだから」
サンジはこの状況に驚いたように目を見開く。まんまるの瞳で私を見て、何で、どうして、と短い言葉を口から溢している。
「サンジがわからず屋だから」
覚悟しろ、とでも言いたげな挑戦的な表情で私はサンジを見上げる。サンジは今から説教でも受けるのかという顔をしたまま、私の次の言葉を待っていた。
「まず、気遣いが出来て細やかなところにも気付いてくれるところ。他の男達には無理ね」
「気遣いが出来て気配り屋なのは君だよ、いつもありがとう」
「いつもスーツが素敵、センスがいいわ」
「君と歩くならダセェ格好は出来ねェよ、君はお洒落さんだから」
先程まで説教でも受けるのかと聞きたくなるような表情で気まずげに私に視線を向けていたのに今は楽しげにレスポンスを返してくる。私の事はいいの、とそのお喋りな口を両手で塞げば、言葉の代わりに愛を綴る碧が弧を描く。
「……その瞳が一番、好き」
片側だけしか覗いていない瞳が私を見つめるこの時間が好きだ、いつも遠くから私を見守ってくれるこの瞳は私の気持ちにだけ気付いていない。いや、気付かぬフリをしているのかもしれない。
「ねぇ、私ね、あなたが好きよ……っ、勿論恋愛の意味で」
「……おれは、おれには君は勿体ねェよ」
私の好きな人に意地悪を言わないで、と私はサンジの胸に力なく寄り掛かった。
「おれなんかに君は眩し過ぎる」
「……まだ言うの」
不貞腐れた私の声にくすりと肩を揺らしたサンジ、こちらからしたらアピールをする度に好きな人が好きな人自身を傷付けるこの状況を笑う事なんて出来ない。
「もう、これは癖っつーかさ、直んねェんだよなァ……」
「直して」
「っ、くく、君がちゃんと百個教えてくれたら考えてもいいよ」
この悪い癖も君と付き合う事も両方ね、そう言ってサンジは私の頭をポンポンと撫でると相変わらずの逃げ足の早さでキッチンに戻って行った。その耳が少し赤くなっていたのは私の見間違えだろうか、そんな些細な変化に胸を踊らせて私はその背中を追う。残り、九十七個の好きを伝える為に。