短編2
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「眠れなかった……?」
「緊張しちゃって」
こんな嘘が通じるのは二回までだ、三回目にもなればサンジだって私の嘘に気付く。目の下には薄っすらとした隈が浮かび、体は昨夜の情事のせいで怠さが残っている。先に起きたフリをしてベッドから飛び出そうにもサンジの熱視線が目を瞑っていても分かる、わざとらしく寝返りを打つ事も出来ずに私は狸寝入りを続けている。
「ナマエちゃん」
名前を呼ばれても無言を貫く、ここでバレてしまっては今までの苦労が水の泡になる。ナミやロビンにしか言っていない恥ずかしい秘密を恋人に打ち明けるにはまだ時間が必要なのだ。
「寝たフリはもうおしまいだよ、レディ」
私の脳内会議を邪魔するかのようにサンジは無慈悲にそう切り捨てた。今、起きたかのように欠伸をしてみたってサンジには演技だとバレてしまうだろう。私は薄っすら目を開けて、サンジの顔を見上げる。
「そろそろ寝れねェ理由を白状してくれるかい?」
「……拒否権は」
「あると思うかい?」
「ないですよね」
はい、分かってます、とおかしなテンションになっているのは連日の疲れと現実逃避だ。恥ずかしい秘密とは言ったが大した秘密かと聞かれたらそうでは無い、私の中では大した秘密だが一々説明する程では、と言った所だ。
「……えっと、」
心配そうに私の言葉を待っているサンジに居たたまれない気持ちになる。顔半分を布団の中に隠して私はボソボソと理由を口にする。
「笑わないで聞いて欲しいんだけど、私ね、ぬいぐるみが無いと眠れなくて……」
「あァ、だから、たまに新しいおトモダチを連れてくるのか」
「おともだち?」
「クマにウサギにヒツジ、あとアヒル」
顔面蒼白になる私の横でサンジは私のぬいぐるみコレクションを指折り数え出す。どこから漏れた?ナミ?ロビン?と疑う私を抱き締めながらサンジはくすくすと笑って首を横に振る。
「君をおもちゃ屋で見たんだ」
島に下りると真っ先にいなくなっちまうから気になって後を追ったら君が真剣にウサギとにらめっこしてた、と言うサンジ。
「……いちばん可愛い子を選んでたの」
客観的に自身の行動を語られると厳しいものがある、いい年をした女が子供のようにぬいぐるみを選んでいるなんてキツイ以外の何物でも無い。
「黄色いアヒルにサンジって名前を付けてた時には心臓が止まるかと思った」
「……もう、やだ」
サンジから逃げるように布団の中に逃げ込むとサンジの腕が私のお腹の前に回される。
「おれじゃ君のテディベアになれねェ?」
「柔らかくないもの」
「……君の為ならサイズアップする」
普段着こなしているスーツのスラックスにお肉が乗るサンジの姿を想像したら可愛くて笑えた。笑わねェで、とむくれた声を出しながらサンジは私をぎゅっと抱き締める。
「だって、可愛いんだもの」
「ぷにぷにでも愛してくれる?」
「勿論」
私はサンジの方を向くとサンジの胸板に頭を預ける、力を入れていない胸筋は柔らかい。ぬいぐるみには負けるが悪くない寝心地だ。
「直ぐには無理だけど、いつかはサンジと寝れるようになるかな……」
「君が眠れるまで付き合うよ、ぬいぐるみだっていくらでも持ってくればいい」
「大人なのに?」
「大人だって眠れねェ夜ぐらいあるだろ」
サンジは私の不安を綿毛のように吹き飛ばす、笑わないでとは言ったがこんなにも受け入れてくれるとは思っていなかった。
「だからさ、そんな思い悩まなくて大丈夫だよ」
優しい手が頭を撫でる、安心を運んで来てくれるサンジの手だ。空いた方の手を自身の口元に持っていき、口付けをする。
「ありがとう、サンジ」
「おれは何もしてねェよ、君が話してくれたからだ」
いつかこの腕の中で眠れたらいいのに、綿のお友達の力なんて借りないで身一つでサンジと朝を迎えられたらいい。いつになるか分からないがその日は案外近いのかもしれない、頭上から降ってくる柔らかな低音からなる子守唄に私は静かに目を閉じた。