短編2
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浮気性の恋人を懲らしめてやろう、と意気込んでからの私の行動は早かった。普段だったら絶対に着ないであろう大胆な服に袖を通して寝ているサンジに声も掛けずに部屋を飛び出した。もう今日は帰らないから、とその知らない女の爪の痕が付いた背中に吐き捨てるように足音を鳴らした。それでも寝返りの一つも打たないサンジに苛立ちを覚える、女好きなのは重々承知しているがそれとこれは別だ。恋をする為に生まれてきたと本人は言うが私からしたら欲に溺れて死ねの一言だ。でも、そんなサンジが憎み切れない私も恋の奴隷で欲に溺れたどうしようもない女なのだ。結局は似た者同士で嫌になる、こうやってサンジの気を引きたくて他の男の元に行く私も女好きのサンジと何も変わらない。
「……ったく、だからって何でおれなんだ」
「サンジが一番嫌がりそうだから」
サンジと私の共通の友人であるゾロ、サンジはきっとダチじゃねェと騒ぎ散らすと思うが気の良い友人に間違いは無い。
「面倒事はごめんだ」
「腕組んで歩いてくれるだけでいいから!」
あと自撮り、そう言ってゾロの腕に胸を押し付けるようにしてスマートフォンの内側に付いたカメラを起動する。隣を歩くゾロからは呆れたような溜息が溢れるが私は聞こえないフリをして高速でキーボードを打つ。
『私も浮気するから』
たった今、撮った自撮りを添えてサンジに挑戦状を送り込む。
「……あいつ、最近女遊びしてねェだろ」
お前と付き合ってからナマエちゃん、ナマエちゃんってうるせェったらありゃしねェ、そう言ってゾロは片耳に小指を入れて顔を顰める。その顔が本当に迷惑そうでつい笑ってしまう。
「でも、もう飽きちゃったみたい」
「……あいつ本人がそう言ったのか」
「女のカンってやつ?」
突然、悪役さながらの笑みを浮かべたゾロは私の肩を抱き寄せて耳元に顔を近付けた。
「お前のカンは大ハズレみてェだな」
「へ」
ゾロの言葉の真意が分からず、私の口からは気の抜けたような音がした。だが、直ぐにゾロは私の体から手を離し、横に体を反らした。元々ゾロが立っていた場所には見知った長い脚があった。
「おー、おー、これは遅ェ登場だな」
壁にめり込んでしまいそうな蹴りを目の前にして、こうも煽れるゾロの神経は大したものだと思う。
「誰の女に手ェ出してんだ、クソ野郎」
普段の戯れ合い(喧嘩)とは違うサンジの声に肩がビクッと震えてしまう。元々はサンジが原因なのにこの状況が怖くて、つい謝ってしまいそうになる。
「てめェが悪ィのに逆ギレか?みっともねェな」
「あ?」
このままでは乱闘騒ぎに発展してしまいそうだ。焦った私は二人の間に体を滑り込ませてサンジの腕を引く。そして、ゾロの方に顔を向けて謝罪を口にする。
「巻き込んでごめん!今度奢るから!」
返事の代わりに片手を上げ、ゾロはその手をシッシと払う。はよ、行け、と動いた口に頷き、狂犬のようにゾロを睨みつけるサンジの腕を引っ張りその場を後にした。
もう今日は帰らないから、とバタンと閉めた筈のドアにドンと押し付けられて身動きが取れない。サンジの長い脚が逃げ道を塞ぎ、そして感情が読めない顔で私をジッと見つめる。
「……なァ、満足かい」
「どういう意味」
「君の手の平でピエロみてェに踊るおれはどうだい」
何の話、とサンジの顔を見上げてもサンジの瞳は翳って普段の柔らかな碧は姿を見せない。
「嫉妬に狂って君にこんな真似をするおれよりも優しく肩を抱いてくれるゾロの方が良くなったかい?」
「……なんで私がこんな真似したか分かる?」
「気まぐれか、それともおれに飽きたか……あとは元々、おれが浮気相手だったとか?」
はは、笑えるね、と自身の金髪をくしゃりと乱すサンジ。その顔はまったく笑えておらず、泣いているようにも見える。
「先に浮気したくせに、何でそんな顔するのよ」
まるで私が悪者のようで嫌になる、私はただやり返しただけだ。サンジは知らない女を抱く癖に肩を抱かれただけでこんなにも責められる私は何なのだろうか。
「君と付き合ってから浮気なんて一度もしてねェ」
「なら、その背中の傷は?」
「君が爪を立てたんだろ」
サンジは靴を脱ぐのも忘れて私の手を引く、そして脱衣所に着くと自身が着ていたシャツを乱暴に脱ぎ捨て鏡に背を向ける。
「これは君が昨日酔っておれにつけた痕、酔っ払った君はまるで百獣の王だ。その彩られた爪をここに立てて、卑猥な鳴き声を上げる」
水道に腰掛けて、サンジは私を膝に乗せる。そして、自身の背中に腕を回させて私の飛ばした記憶の再現を見せつけるように艶めかしく笑う。
「おれを襲うレディなんて君ぐらいだよ」
そう言って私の鼻に噛み付くサンジ、甘噛みにしては少しだけ力が強い。
「……おれは君が思ってる数百倍は一途でクソ重ェ男だよ、君がまた浮気するなんて言い出した日には部屋に閉じ込めちまうかも。でも、君の細ェ足に鎖なんて付けさせたくねェからさ、お利口さんでいて」
サンジはそう口にして、私の足首を指でなぞる。ひやりとした手に体が震えたのはサンジの重苦しい愛情への恐怖か、それとも歓喜か。翳りが取れた碧眼に映る私は後者の顔をして、サンジを見つめていた。