短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この世には尽くす者と尽くされる者がいる、サンジはどう見たって前者だった。見返りなんてものはどうでもよくて、ただ彼女が幸せだと溢せば、至上の喜びだと言って甲板の上をくるくるとバレリーナのように回って、柄にも無く恋する少女のようにきゅんと胸を鳴らしながらオーバーなアクションをする。そして、彼女が眩い華のような笑みを浮かべれば、その笑顔を自身のありとあらゆる手を使って引き出してみたくなるのだ。だが、彼女だって尽くされるだけのお姫様に成り下がる気は無い。普段、自身に百パーセント以上の愛を向けてくるサンジに何かを返したいと常日頃から思っていた。なのに毎回毎回サンジに先回りされてしまうのだ、プレゼントもサプライズも愛情表現も夜の多少のサービスも気付いた時にはサンジから仕掛けられている。している本人は随分と嬉しそうだが、されている彼女からしたら嬉しさプラス悔しさが同時に沸く。
「サンジの欲しい物って何」
包み隠す気はとうの昔に飛んで行った、どうせ念入りに隠した所で一ミリ程度の違和感にサンジの彼女センサーが発動して計画は失敗に終わる事を彼女は理解していた。
マジックのように野菜の皮をスルスルと向いていくサンジはその手を止めずに彼女からの質問に答える。
「既に持ってるんだよなァ」
「?」
サンジの既に持っている物と言えば、スーツにネクタイ、それとも最近よく着用しているグローブだろうか。それとも料理器具、他にはジッポ、彼女の脳内にはサンジの愛用の品がポンポンと浮かぶ。最後に出てきた水着ギャルが載ったエロ本に顔を顰めて脳内から放り出す、それだけは却下だ、と。
「それってどういう顔」
「サンジの煩悩に嫌気が差しただけ」
「はは、煩悩っちゃ煩悩だけど健全な方だよ」
健全なエロ本なんてあるわけないでしょとサンジに対する偏見を膨らませていれば、サンジは作業の手を止めて彼女を見つめる。
「君が笑ってくれたらおれは大満足」
「へ」
脳内のサンジと現実のサンジのギャップが凄すぎて彼女は腑抜けた返事しか返せない。そんな彼女にサンジはくすりと笑みを溢して、また口を開いた。
「そんで、隣にいてくれたら百点だよ。花丸」
だから今は何もいらねェかなァ、と呑気に皮剥きに戻ろうとするサンジの腰に彼女は勢い良く抱き着いた。
「今、包丁持ってんだけど?」
「……サンジは間違っても私を傷付けないもん」
「おれの愛を信用してくれてありがとう、レディ」
抱き着いてくる彼女にカンストした愛情を向けるサンジ、その表情はニヤニヤと言うよりも無償の愛を浮かべたような柔らかな笑みだ。そして、自身の腰に回された彼女の腕をポンポンと叩く。
「そこじゃ君の顔が見えねェんだ」
「うん?」
「だからさ、こっちに座っておれを見て?今なら君が大好きな格好いいコックのおれが見れるよ」
「ふふ、何それ」
恋人へのサービスだよ、と笑うサンジに彼女は何度目かの負けを言い渡す。結局、無償の愛の前では為す術なんて残っていないのだ。