短編2
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仕立てのいいスーツに毛が付くのもお構い無しでサンジは片膝に一匹ずつ猫を乗せる。短い手足でこちらに歩み寄って来る猫は膝にいる二匹と比べると随分と小柄だ。手を伸ばせば、ちろりと覗くザラついた舌がサンジの指をぺろりと舐めた。
「人懐っこいね、お前」
サンジは猫の顎下を手慣れた手付きで擽る、猫は気持ち良さそうに喉を鳴らしてサンジの周りに集まる。リラックスしたように腹を天井に向ける猫もいれば、丸くなりサンジの横から離れない猫もいる。
「猫もブロンドの美人さんがいいのね」
不貞腐れた顔を隠しもせずに私は溜息をつく。猫達はそんな私の横を素通りしてサンジに引き寄せられるように向かって行く。にゃーにゃーと可愛らしい声で鳴き、サンジの気を引こうとする猫達。
「美人は君だよ、レディ」
愛を囁くようにサンジはそう口にすると猫の鼻と自身の鼻を擦り寄せ合う、雌猫にもそんな態度なのかと呆れた表情でサンジを見つめていれば、猫の金色の目がこちらを向く。
「そして、こっちはおれの自慢のレディだよ」
「……猫に紹介してどうするのよ」
「美人さん同士が仲良くしてるのは目の保養だろ?」
「もしかして、さっきの根に持ってる?」
おれは本気でそう思ってるのに、そう言ってサンジは猫を撫でていた手で私の顎下を擽る。ゴロゴロと鳴くフリをする私にサンジは小さく笑って、甘い囁きを溢す。
「ベッドで鳴いて欲しいなァ、なんてね」
「セクハラ」
「っ、くく、ひっでェの」
サンジの膝に乗っている斑猫に視線を合わせる為に地面にしゃがみこむ。そして、まるで内緒話をするように声を潜める。
「あなたはどんな声で鳴くのが正解だと思う?」
教えて、先生、とその毛並みを撫でれば、気の抜けたような答えが返ってくる。
「ふふ、随分ダミ声なのね」
「……これでベッドに?」
顔を見合わせてお互いに却下を言い渡す。きっと、行為は中断になってベッドの上で笑い転げるのがオチだろう。
気ままに過ごす猫達は笑いを引き摺ったままの私達を置いて自分達の場所に帰って行く。一匹はフェンスの穴を潜り抜け、その後ろに続いた二匹は路地を進む。そして、サンジの膝を座布団代わりにしていた斑猫は最後に私の指をぺろりと舐めてサンジの膝からピョンと飛び降りた。
「にゃあ」
ダミ声を鳴らして塀の上に飛び乗った斑猫は気ままな旅に出る、それに返事をするように手を振って空いた手でサンジの右手をぎゅっと握る。
「なぁに、妬いた?」
「猫にモテ過ぎるのも考えものね」
サンジの腕に寄り添い、茶化すように私は拗ねた声を出した。人間ならまだしも猫にまで妬いていたらキリが無い。
「まだここに一匹、気まぐれな猫が」
そう言ってサンジは軽々と私を抱き上げる。革靴を鳴らして海岸とは逆の方向に歩を進め、今日の宿に向かう。
「これからのご予定は?」
「シーツの波に揺られるなんてどうかな?」
誘い文句に乗るように私はサンジの首に腕を回し、にゃあと鳴いてみせるのだった。