短編2
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チープな味とチープな煌めき、プラスチックの輪っかの上に乗っかった甘いだけの石は少女だった私をお姫様に変身させた。ヒラヒラとワンピースの裾を揺らして、眩しいくらいの太陽に左手を翳す。ソーダ味のダイヤモンドはキラキラと煌めき、それをうっとりと眺めている私の瞳も同様にキラキラと輝いていた。当時、見つける度に母に強請っていたリングキャンディ。舌の熱で段々と溶けて指の周りはベタベタになり、ダイヤモンドはどんどんと輝きを失う。その時間は私が普通の少女に戻る合図のようで嫌いだった。ずっと溶ける事なく指に居座ってくれればいいのに、と泣いては母を困らせた記憶がある。
カラン、コロンと下駄を鳴らしながら島でやっている祭りを散策していれば幼い頃の記憶が蘇る。
「気になるものでもあったかい?」
サンジは私の覚束ない足取りを心配して船を下りてからずっと手を繋いで私をエスコートしてくれている。
「懐かしいものがあったの」
そう言って、私は屋台を指差す。ベロアのリングケースとは違い、ただのプラスチックの台座に置かれたリングキャンディ。
「昔ね、あれをつけてる間はお姫様でいられたの」
男の子の変身ベルトみたいなものよ、と笑う私の手を引いてサンジは屋台に足を向ける。呆気に取られる私を背後に置いてサンジは屋台のおじさんに声を掛け、ベリーと青色のリングキャンディを交換する。その青色はサンジの目によく似ている、透き通るような海のような青。サンジはおじさんに礼を言うとその場から離れ、私の指にそっとリングキャンディをはめる。
「今だって君はお姫様だよ」
体を屈ませて青色のダイヤモンドに口付けるサンジ、私を見上げるその瞳はチープなキャンディとは違う。舌の熱で溶ける事もなければ、指をベタベタにする事もない。そして、輝きは一向に失われない。
「もうそんな子供じゃないわ」
「お姫様に年齢は関係ないよ」
「そうじゃなくて、もうリングキャンディが無くてもお姫様でいられるのよ」
そう言って私は自身の左手を掲げる、祭りの為に飾られた電飾の光が青色のダイヤモンドに集まりキラキラと煌めく。
「溶けてもサンジがお姫様にしてくれるって知ってるの」
幼い頃に憧れたお姫様の隣には王子様がいた、ブロンドに碧眼の背の高い王子様。だが、幼い頃の私にはそんな王子様はいなかった。あったのはお姫様のように裾が長いワンピースと変身する為のリングキャンディ。
「なら、試しに溶かしてみようか」
そう言ってサンジは私の手を掴み、リングキャンディに噛み付く。歪にヒビが入ったダイヤモンドの欠片を口の中で転がしながらサンジは私の唇に自身の唇を押し付けた、口の中に広がるチープなソーダ味はあの頃と何も変わらない。
「ちゃあんとおれのお姫様は此処にいるよ、レディ」
王子様の正体に気付いていなかったあの頃、こんな強引な種明かしをする王子様がいる事を私は知らなかった。