短編2
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『過去に戻れるならいつに戻りたい?』
今、そんな質問をされたとしたら私は間違いなく数分前と答えるだろう。ほんの少しだけ時計の針を戻せる事が出来るのならば、今すぐにでも数分前の自身の口を縫い付けてしまいたい。サンジの腹に頭をグリグリと押し付けながら現実逃避を繰り返す私の背中を撫でながらサンジは穏やかな微笑みを浮かべている。優しさが痛いとはこういう事だろうか、サンジの優しさが私のやらかした事を余計に際立たせている。
数分前の私は普段と同じようにその差し出された手に自身の手を添えて、恋人の名を口にする筈だった。
「お母さん」
「へ」
口から飛び出したのは「サンジ」ではなく久方ぶりに呼んだ「お母さん」という一言だった。この発言に一瞬固まってしまう私とサンジ。だが、先に動き出したのはお母さんと呼ばれた恋人のサンジだった。
「ママだよ、ナマエちゃん」
おちょくっているわけでも茶化しているわけでもない甘やかすような声色でサンジはその呼び方を受け入れた。ぎゅっと恋人繋ぎにした手を二人の間で揺らしながら、私の顔を覗き込んでいるサンジの顔には既に母性が芽生えていた。子を見るような微笑ましい眼差しで私の言葉を待っていた。この辺りで自身の失言を完璧に理解した私はその場にしゃがみ込み、言い訳と謝罪を繰り返す。こんなつもりじゃなくて、ついウッカリで、ごめん、忘れて、記憶を消してくれ、穴があったら入りたい、と繰り返す私の顔は段々と自身の丸めた膝に埋まっていく。
「おれって君のママに似てる?」
「……もう、忘れて」
項垂れる私の隣にしゃがみ込むとサンジは腕を広げて私を抱き締めた、私は恥ずかしさからサンジの腹に頭を埋めて無言で頭をグリグリと擦り付ける。
「っ、くく、可愛いなァ」
「……かわいくない」
「目に入れても腹に入れても痛くねェ程、可愛いよ」
でも、おれは母親より君の旦那サマになりてェなァ、とサンジは未だに恥ずかしさから顔を上げる事の出来ない私の頭をポンポンと撫でながらそんな事を言う。
「へ」
思わず顔を上げた先には甘ったるい表情をしたサンジがいる、視線が重なると余計に垂れ下がるサンジの目元。
「ママもいいけどさ、一番向いてるのは旦那サマだと思わねェ?」
「どちらかと言えば、嫁でしょ」
「はは、でもさ、ウェディングドレスはダーリンに譲るよ」
そう言ってサンジは私の額に口付ける。本番はちゃんと唇にして、と言えばフライングしたサンジの唇が私の唇を攫っていった。