短編2
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サンジの整った横顔を見つめながら、私は指を拳銃のように構えてバーンと撃ったフリをする。突然の私の行動に目を丸くしたサンジは一瞬で私の意図を理解したのか、胸を押さえてその場に倒れ込む。だが、まんまるだった目にはハートが浮かび撃たれた人間には見えない。
「こ、これは……っ、愛の弾丸」
透明の銃弾はしっかりとサンジの心臓を撃ち抜いたらしい。私の突然の奇行とも呼べる行動にサンジは物申したりせずに役者さながらにノッてくれる。キッチンの床に尻餅をついたような体勢で倒れているサンジに近付き、その生を確かめるように私はサンジの胸に耳を当てる。今の私は自身がサンジを傷付けないという保証が欲しかった、この指から鉛玉なんて飛び出すわけがないのに今の私はこうでもしないと不安を取り除けない。
少しの沈黙の後、サンジの手が後頭部に回された。おれの心臓の音なんか聞いても面白くねェだろ、と言いながらもサンジは私が安心出来るように頭をゆっくりと撫でてくれる。
「……夢を見たの」
「どんな夢って聞いたら君は傷付くかい?」
君が傷付くぐれェならおれは好奇心を仕舞ってこれ以上は聞かねェよ、とよく通る低音が鼓膜を愛撫する。
「サンジが傷付くかも」
「おれが?」
頭を撫でる手を止める事なく、サンジは私の顔を覗き込む。
「君に傷付けられるなら本望だよ」
「また、そんなこと言って……」
だって本気だもん、そう言ってサンジは鼻と鼻を擦り合わせて戯れるように私の顔にキスを落とす。
「君の夢でおれはどうなった?」
「浮気したから私が撃っちゃった」
「はは、撃っちゃったの?」
何て緊張感の無い会話だろう、私の話を聞くサンジの顔は怯えるわけでもなければ怒りすら見当たらない。浮気を疑うような夢を見て、夢の中で恋人を殺めてしまうような女に嫌な顔の一つすら見せないサンジ。
「随分、情熱的な嫉妬だね」
「……茶化さないで」
「ただ、悪くねェかもって思っただけだよ」
君に殺意を向けられたらゾクゾクしちまう、とサンジは言う。性癖は十人十色だが真っ当な感覚を持っている私からしたら表情が引き攣ってしまうのは仕方ない事だろう。
「願望があるわけじゃねェよ。ただ、君から向けられるものなら愛でも殺意でも美味しくいただきますって話」
サンジの言葉を聞いていると夢だと割り切れずに沈んでいた私が馬鹿みたいに思える。見ての通りサンジは私の事になると頭のネジが一本か二本外れてしまう、それにマゾという言葉がよく似合う男に成り果てる。夢の中の偽物と違って浮気なんて器用な真似を出来るような男ではない。
「夢の中だけで十分よ」
「確かに」
それにさ、おれはとっくに君に心臓を撃ち抜かれてるからね、とサンジはウィンクをひとつ落とす。
「出逢った頃からずっと、ね」
それなら、きっと私もそうだ。サンジの撃った鉛玉にやられた心臓はこんなチープな殺し文句にも馬鹿な音を立てる。その馬鹿な音を聞かれないように私は目の前の唇に噛み付くようにキスをした。愛はいつだって暴力的で正気でいられる程、優しくもいられないのだ。