短編2
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海賊をしていれば大抵の事は笑って流せる、どんな不思議が起ころうと世界は広いんだなと関心してしまう事の方が多い。だが、今現在自身の体に起こっている現象を笑い飛ばせる程、能天気にはなれない。縮んだ身長に板のような胸、そして短い手足に舌っ足らずな話し方。そして、幼少期の自身に引っ張られる精神。幼少期の私はとんでもなく人見知りだった、人前に出る事は勿論、人と話すのが苦手だった。いつも両親の後ろに隠れてモジモジと人差し指を擦り合わせているような子供。そんな時代に精神を引っ張られている私は現在、恋人であるサンジのスラックスに張り付き、仲間である皆ともまともに目を合わせる事が出来ない人見知りの子供に逆戻りしている。
「ここには怖ェ奴はいねェよ、ナマエちゃん」
そう言って視線を合わせるようにしゃがみこんでくれるサンジ。そんなこと頭では理解出来ているのだ、ただ引っ張られている精神が怖いと怖気づいて足が動かなくなる。
「……子供の私に引っ張られて駄目なの」
「人見知りだったの?」
「見て分かる通り極度のね」
サンジの優しい手が私の頭を撫でる、潮風に晒された髪もこの現象に巻き込まれ天使の輪が踊るキューティクルヘアーだ。これだけは元に戻らなくてもいいのに、と都合の良い事を考えながらサンジの腕に甘えるように抱き着く。
「おれは平気なんだね」
「だって、サンジだもの」
皆、良い人だ。今の私の困った態度にも嫌な顔ひとつせず優しく接してくれる。それでもサンジの安心感には誰も勝てそうにない。
「恋人の愛ってやつかな?」
そう言って柔らかな笑みを向けてくるサンジ、普段と違う私を見ても恋人として扱ってくれる事が嬉しい。茶化すようにロリコンなのと失礼な質問をしてもサンジは顔色を変えず、声を荒らげるような真似もしない。
「器が変わっただけだよ、俺が恋した君が消えたわけじゃねェ」
「……戻らなかったら、どうするの」
「おれは今まで通りだよ、何も変わらねェ」
君に恋をしたまま、君を愛するだけ、と何てことのないようにそう口にするサンジ。この体じゃ勿論サンジの相手なんて出来ない、何も変わらないなんて普通に考えて無理だ。
「体を重ねたりは出来ねェけどさ、心は重ねられるよ。君だって知ってるだろ、おれの愛情表現はセックスだけじゃねェって」
君が呆れちまうぐらいに愛を届けるよ、言葉で表情でめかしこんだ格好で料理で君に愛を伝えるから君は受け取る準備だけしてて、とサンジは私の小さな両手をぎゅっと自身の手で包み込む。
「良かったわね」
「ん?」
「幼気な少女の初恋を塗り替えたわよ」
記憶の片隅にいた朧気な少年は塗り替えられて目の前のサンジに移り変わった、人見知りの内気な少女の初恋は悪い海賊に奪われてしまったのだった。