短編2
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酒臭い息を吐き出しながらサンジは私の背中に頭から倒れ込む、酔っ払っていても力加減されているせいか重くはない。だが、腰に回された腕だけは絶対に離さないと言わんばかりにぎゅっと私の腹の前できつく交差している。
「夢の中……」
「ん?」
「夢の中でぐらい好きって言って」
何で夢の中、と酔っ払いに正論を叩き付けた所でまともな返事は期待出来そうにない。夢と現実の区別がついていないサンジはとろんとした瞳に涙の膜を張って、私の肩に雨を降らす。
「泣く程、好きなの?」
「……夢でも、伝わらねェの」
自他共に認める女好きのサンジが好きと言ったって信憑性がない、仲間としての好意だったら理解出来るが惚れた腫れたといった感情を混ぜるとどうも駄目だ。
「おれだって本気になる事ぐらいあるよ」
「へぇ」
自身が出したとは思えない程に感情の篭ってない相槌を打ちながら、しなだれかかってくる金髪を撫でる。別にサンジから向けられる好意が嫌なわけではない、ただ、酔っ払いの話を信用して酔いが醒めた時が一番怖い。何の話?なんて言われた日にはその無駄に整った顔を殴ってしまいそうだ。
「好きだよ、君が」
「なら、現実で言えばいいじゃない」
サンジは私の腰を自身の方に引き寄せ、向かい合うように私を膝に乗せる。
「……きっと、いい顔しねェよ」
額がコツンと合わさる、アルコールのせいかサンジの白肌は赤く火照っている。視線はただただ真っ直ぐ私を射抜き、寂しそうに揺れる。
「はは、夢でもそうか」
そう言ってサンジは笑っているような、泣いているような不自然な表情で私の首に腕を回す。
「おれの不毛な片想い」
夢だから、許して、と途切れた声を最後にサンジは私を抱き枕にして座ったまま寝てしまう。言いたい事だけ言って寝るんじゃないわよ、と怒ってやりたいが眠りの海に潜ってしまったサンジにはきっと聞こえないのだろう。それとも明るい返事を返せば、起きてくれるのだろうか。サンジの耳はいつだってレディのお願いや泣き声を聞き逃さない、どれだけの騒音が鳴り響いていてもレディの声だけを拾うサンジの耳。
「好きになってもいいよ」
私を特別にしてくれるなら、そう口に出してもサンジの瞳は未だに瞑ったままだ。
「……今、起きなきゃ後悔するわよ」
サンジの頬を軽く摘んで脅し文句のような言葉を吐き出す、これではまるで私の方がサンジとの関係を望んでいるようだ。馬鹿馬鹿しい、とサンジの頬を解放しようとした手はサンジの手によって捕まえられた。一瞬、狸寝入りを疑うがサンジの目元を見れば瞼は重くその下に隠れていた瞳は眠たげに私を見つめて、意識は夢と現実の狭間で揺れている。
「ナマエちゃんだ」
「うん、ナマエです」
サンジはへにゃりと表情を崩すと私の体をぎゅっと抱き締める、きっと今もこの時間を夢だと思っているのだろう。サンジが覚醒するまであと数分、きっと大慌てで土下座をしてくるであろうサンジに掛ける言葉を考える。とりあえず第一声は決まっている、夢から醒めるのが遅い、そう言って現実を叩き付けるのだ。夢のような現実を早く味わえばいい。