短編2
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「ねぇ、サンジ」
甘えるような猫撫で声で私はサンジを呼ぶ、瞳をハートにしたサンジは普段と同じように見えない尻尾をフリフリと振りながら私に近寄って来る。今から最低なお願いをするとは知らずに可哀想な男だ、そんな立場では無いのについ同情してしまう。
「ここに座って」
「はぁい♡」
ソファに腰掛けたサンジは次の言葉を待つように正面に立つ私を見上げる、疑っているような素振りなんて一切ない真っさらな碧がやけに眩しくて心苦しさを覚える。
「……サンジ」
「なぁに?」
「私の事、一度だけ抱いて」
決定事項のように私はサンジにそう伝えると下手なストリップショーを始める、身に纏っていた大して面積の無い衣服を目の前のサンジに見せ付けるように一枚、一枚脱いでいく。
「駄目だ、ナマエ」
「あら、こんなビッチはナマエちゃんとも呼べない?」
わざと煽るような言葉を吐き出してもサンジは瞳を逸らそうとはしない、ほぼ下着同然の私の体を隠すようにサンジは自身が着ていたジャケットで私を包む。
「自分を安売りするな」
普段のサンジからは想像が出来ないような静かな声、まるで覇気をぶつけられているような緊張感が背中をなぞる。握り締めた手のひらは汗ばんで気持ち悪い、緊張を隠すように両手を背中の後ろに隠した。
「なぁ」
何もかもを見透かすようなサンジの視線につい目を逸らしてしまう。
「大事に出来ねェならさ、おれにくれよ」
「は」
「君が蔑ろにした分、おれが大事にする」
唖然とした表情を浮かべる私の手を引いてサンジは自身の膝の上に私を座らせる、ジャケットの裾を敷物にして肌が触れないように配慮されたその気遣いすら隙が無い。
「……同情ならいらないわ」
最低なお願いの裏で叶わない恋が泣いている。好きだから一度の博打に賭けたのにその博打は失敗に終わり、恋の代わりに同情の手を引いて来た。まったく、惨めなものだ。
「一度だけ抱いてくれたら、諦めようと思ったの」
あなたを好きでいる事を、そう言って下を向く下着姿の私は本当に落ちぶれたストリップダンサーのようだ。
「何で諦めちまうの」
「……望みが無いから」
「そんな悲しい事、誰が決めたんだい」
膝の上で組んだ自身の手、ぎゅっと力任せに握り締めた手の上からサンジの手が重なる。親指で私の手の甲を撫でながら、包み込んでくれる手はいつも優しい。
「だって、私はナミやロビンじゃない。美人でも無ければ、愛嬌だって無くて……サンジに構ってもらえるのだって女ってだけで、私じゃなくても別に」
「おれが君に構う理由なんて一つだよ」
女だからでしょ、自身の中で勝手に答えを出して落ち込む私に手を差し伸べるようにサンジはこう口にした。
「君と同じ気持ちだから」
「同じ……?」
「大切にしてェっていうのはさ、君が好きって事だよ」
だから、おれの好きな子をあんまり虐めねェで、その言葉を私が理解するよりも先にサンジの長い腕が私を優しく包み込むのだった。