短編2
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同棲して数ヶ月もすれば、自ずと相手の欠点が見えてくると思っていた。欠点以外にも弱点だったり親しい人間にしか見せない一面を見れると期待していた、そんな私の期待は外れて出会った頃と変わらない隙の無い只々完璧な恋人が私に微笑み掛けながら料理を運んでくる。名前すら分からない横文字の料理、コックであるサンジの料理に外れなんてない。名前なんて分からなくても味は私の舌と胃袋に爪痕を残す、サンジ以外の料理を受け付けなくなってきた自身の贅沢な舌と胃袋に苦笑いを溢す。
「(……サンジに捨てられたらどうしようかしら)」
同棲してからも不安は消えない、自身の欠点は常に大放出と言っても過言では無いのにサンジは嫌な顔一つせず駄目な私を許してくれる。部屋の片付けに手こずる私を見ても、君の巣みたいだ、と笑いながら掃除を手伝ってくれるサンジ。料理はもう見ての通りだし洗濯だって気付いたらサンジがやってくれている。完璧な恋人はいつまで経っても完璧、隙も無ければ欠点も無い。
「エッ!?ナマエちゃん!?」
玄関の扉を開けた先には見た事の無い恋人の姿があった。見慣れたアイロン掛けしたシャツにスラックス、それを全て取っ払ったパンイチ姿。片目を覆う金髪は女児用のヘアゴムでくくられ、個性的な眉毛が丸出しになっている。私が口を開く前に自室に逃げ込もうとしたサンジは自身の長い足に片足を絡めとられ、派手な音を立てて転倒する。私は履いていた靴を乱暴に脱ぎ捨てると急いでサンジに駆け寄る、サンジは床に転がったまま自身の顔を腕で隠すようにして私に背を向ける。
「サンジ、大丈夫?」
「……サンジじゃないです」
自身の苦し紛れの言い訳に限界が来たのか、サンジは芋虫のように体を丸めて膝を抱える。いつも、シャンと伸びた背筋は丸まって影を背負っているかのようにどんよりとしている。サンジの口からは幻滅、同棲解消、別れ話と不穏な単語が次々に飛び出してくる。
「……帰る時に連絡ちょうだいってメッセージ送った筈なんだけど見てねェ?」
膝に埋めていた顔を上げて、サンジは私を見る。普段の余裕があり完璧な王子様なサンジはそこにはいなかった。私はサンジのヘアゴムを指でツンツンと突きながら、ニヤける頬を解放する。
「待って本当に可愛い」
「へ」
「今までは隠してたの?」
連絡無しで帰ったらまた見れる?と矢継ぎ早にサンジに詰め寄る私は水を得た魚と変わらない。
「……幻滅しねェの」
だらしねェって、そう言ってサンジは私の頬に手を伸ばす。普段の甘やかす手つきとは違う、縋るような臆病な手つき。
「しないよ」
「王子様じゃねェのに……?」
私は別に王子様が好きなわけでも王子様に夢を見ているタイプでもない。ただ、サンジを初めて見た時につい口から溢れてしまったのだ。あなたって王子様みたいね、と。自身でも馬鹿馬鹿しいと思うが美しいブロンドに碧眼、そして紳士的な態度に完璧な振る舞い、どこを取ってもサンジは王子様のようだった。
「まだ、覚えてるの」
「君の王子様になった日だから」
「ふふ、キザな台詞がヨレヨレのパンツで台無しよ」
「……今日の記憶だけ何処かに置いて来てくれねェかな」
完璧で隙の無い恋人の姿はサンジの努力によって出来ていた事を今更ながらに知る。同棲して数ヶ月、ボロを出さなかったサンジが凄いのか私の鈍さが壊滅的なのか、答えは出そうに無いが一つだけ分かった事がある。
「こっちのサンジも可愛くて好き」
ゴムが伸びたヨレヨレのパンツ姿でも個性的な眉毛が丸出しになっていても私を見つめるその碧眼は相変わらず甘い。好きだ、と物語るその瞳の中に映る私は相変わらず王子様に恋をしていたのだった。