短編2
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何度目かの呼び出しに応じた私は毎度お決まりのサンジの話に適当な相槌を打つ。涙目のサンジに口喧しく拗ねられては困るので相槌はタイミングを見て適切な場所でアドバイスを送る、そうすれば泣き虫の酔っ払いはへにゃりと整った顔を崩してご機嫌になる。先程までは、○○ちゃんに振られた、とお決まりの泣き言を溢しながら特段強くないのに酒を煽って泣いていたサンジ。随分とチョロい機嫌だな、と思いながら私は自身のグラスを傾ける。
「これで何回目?」
「傷に塩を塗りこまないで」
サンジはわざとらしく胸を押さえて、ぴえん、と巫山戯た泣き真似をする。
「かわいこぶんな」
「むっ、○○ちゃんには可愛いって言われましたー!」
「フラれてるからノーカンでしょ」
テーブルに撃沈しているサンジをツマミに飲む酒は美味い、百面相をしては赤い頬を膨らますサンジ。そこに普段のカッコつけの仮面は見当たらない、そこにいるのは私の後ろを着いて回ってはナマエちゃんと結婚すると子供らしい可愛いプロポーズを口にしていた年下の男の子。いつの間にかそんな事を口にしなくなり、他の女の子の尻を追っ掛けてはデレデレと表情を崩す女好きに成長した私の愛し子。フラれる度に家に押し掛けて来て、こうやって私の過去の記憶を塗り替えるように駄目な男になり下がる。
「……そうであって欲しかったのにな」
撃沈していたサンジの瞳がこちらを向く、独り言の意味を探るように碧眼が私を射抜く。
「ねぇ、何でフッたの」
「フラれたのはおれだよ」
おかしなナマエちゃん、とサンジは瞳を伏せて静かにグラスの中身を見つめる。普段は瞳を逸らしたりなんてしないくせに、大人になっても嘘が下手な子だ。
「ナミちゃんから聞いたの、ずっと彼女なんていないって。告白されても毎回頭を下げて断ってるんでしょ?」
サンジの否定が入る前にその手からグラスを奪う、酒で誤魔化すのはもうここまでだ。
「ここに来る理由を教えて、サンジ」
「……君が誰かのものになるのが嫌だった」
優先してもらえる程もう子供でもねェ、それに理由がねェと君に会いに行けねェから、そう言ってサンジは寂しそうに笑う。
「誰かのものになったら何で嫌なの」
「今日は何で何でって君の方が子供みてェだね」
サンジの手が私の手の上に重なる、大きさは随分と前に抜かれてしまった。子供の成長というものはこんなにも早いのかとその背伸びしたような髭面に視線を向ける。
「……好きだからだよ、君が」
「結婚したいくらい?」
「あぁ、一生を捧げたいくらいに君を愛してる」
私はその重なった手のひらを自身の方に引く、バランスを崩したサンジの唇を奪うように自身の唇を押し付けた。
「ヘタレサンジ」
「っ、くく、酷ェの」
近くにあったその顔はもう子供では無かった、私の記憶を上書きしたその顔は一人前の男の顔をしていた。