短編2
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「サンジは可愛いね」
撫で回す手を止めずに私は口癖のようになってしまったその言葉を何度も口にする。その度にサンジは不信感とまではいかないが理解出来ないという顔をする。そして、最後に困ったような顔のまま私に可愛いのは君だよと甘い言葉を吐く。こんなに可愛がっても、可愛いと全身でアピールしてもサンジには半分以下も伝わらない。
「君の可愛いはちょっと他の人と違うのかな」
んー、んー、と悩ましい声を上げながら腕を組み、可愛いの意味を理解しようとしている姿が可愛い。指折り数えながら私の可愛い所を並べていく姿だって普段よりも何だか幼くて可愛らしい。
「いつか、分かる日がくるわよ」
「……君が格好いいって言ってくれる日とどっちが早いかな」
「格好いいは無いわね」
「即答はやめて、レディ」
そう言って戯れつくように頭をグリグリと肩に擦り付けてくるサンジ、癖付いた金髪が乱れるのも気にせずに甘えてくる姿だって狙っているような可愛さがある。それにサンジは文句無しに格好いい、黙っていれば島の女の子の二人や三人余裕で持ち帰れるだろう。
「(言ってあげないけど)」
隠した独占欲には気付かず、サンジは私からの甘やかしに顔をデレデレと溶かす。数年経ったらその目尻には深い皺が寄ってしまいそうだ、きっとその皺すら色気の一部に変えてしまうのだろう。そして、また私は年甲斐もなく妬いては独占欲を飲み込むのだ。
可愛い、可愛い、と何度も口にする私に段々とサンジは疑問を抱かなくなった。慣れたというよりも可愛がられる事に喜びを覚えたらしい、可愛いと口にすれば私の両手を掴んで自身の頭に持っていくサンジ。私よりも高いサンジの身長はサンジの気遣いによって楽々と手が届く位置まで下がってくる。撫で回される準備は出来ています、とでも言いたげにサンジはドヤ顔で私を上目遣いで見つめて、にこっと可愛らしい笑みを浮かべる。
「……誰があなたをこんなに可愛くしたの」
「っ、くく、君が言ったんだろ?可愛いって」
ほーら、手を止めないで、と甘えたような声を出すサンジにくらりと脳味噌が揺れる。サンジと一緒にいるせいでサンジの愛情表現という名の病気が伝染ったのかもしれない、きっとこれがメロリンという現象なのだろう。
「っ、テメェ、おれの可愛い顔に何してくれてんだ!?あ!?」
敵と周りに散らばった仲間達、二つの時間がサンジの怒鳴り声を合図に止まった、今回の敵に時間を止めるような能力者はいなかった。シーンとした静寂の中、サンジだけが未だに暴言と蹴りを止めない。サンジの顔に傷を付けた敵の顔にはサンジが受けた傷の何倍も酷い傷が広がっている。この異質な空気に気付いていないのかサンジは敵の腹に長い脚を蹴り込むと私の方を振り向いて可愛らしい小動物のような顔をする。
「ナマエちゅわ〜ん……おれの顔、まだ可愛い……?」
サンジの頬には刀傷がある、その刀傷に顔を顰めながらサンジはそう言って眉をハの字に下げる。高まった自己肯定感とは別に私から可愛がられなくなる不安に揺れるサンジのそのチグハグさにまた脳味噌が揺れた。
「一番、可愛い」
異質な空気を無視して飛び出した私の本音にサンジは安心したようにへにゃりと笑った、背後から聞こえるナミの怒号もウソップのツッコミも今の私達には届いていない。メロっと揺れた瞳のハートは互いの瞳に浮かんでは二人だけの世界を見つめていた。