短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
酔っ払いの良い玩具にされたサンジは自身もその酔っ払いと同じように顔を真っ赤にさせて、大変ご満悦な表情を浮かべて私にぎゅっと抱き着いた。
「かあいいねェ」
酩酊状態のサンジに水を差すべきではないと理解しながらもその甘い言葉を肯定するのは中々にメンタルに来る。だが、ここで何を馬鹿な事を、と否定すれば朝まできっと寝かせては貰えない事を身を持って知っている。セクシーな意味ではなく、いかに私が可愛いかを聞かせて、こちらがそれを否定すればするほど意固地になり自身の口でドラムロールを鳴らし一つ、一つランキング形式で私の可愛い所ベストテンを発表し出すのだ。その時々で内容は全て変わり、二度と同じエピソードは聞けなくなる。私からしたらどのエピソードもお蔵入りして欲しいのが本音だ。ご機嫌な酔っ払いはカーペットに座り込み、私の腰に足を巻き付けて正面からチュッ、チュッと陽気なリップ音を鳴らし顔中にキスの雨を降らしている。
「はあーーかわいい」
ぎゅっと抱き締めていた力は酔っているせいかギチギチと威力を上げて、か弱い私の体を締め上げる。アルコールで体温が上がったサンジの背中をペチペチと叩いて抗議をすれば、ほんの僅かだけ力が弱まる。
「折れる、折れる」
「んー?おれが君を傷付けるわけねェじゃん」
おかしなナマエちゃん、とサンジは赤ら顔を緩めて呑気に笑っている。おかしいのはサンジの腕力の方だろう、と私は呆れた表情で酔っ払いの相手をする。元々あまり酒に強くないサンジは給仕に回ることが多い。だが時々厄介な酔っ払い(ナミ)に絡まれてはレディのお願いならと言う事を聞いて、注がれたら注がれた分だけ呑んでしまう困ったクセがある。そして、結局ベロベロになり恋人である私の元に頼りない足取りで近付いてくるのだ。ナマエちゃん、ナマエちゃん、と飼い主の周りを跳ね回る犬のように私に絡み付いて素面の時以上に愛を垂れ流す。
「おれを見て」
「見てるよ」
「だめ、集中してねェもん」
私の首に腕を絡めて腰に巻き付いていた足に力を入れ、サンジは私を引き寄せる。こつん、と額が当たり、少しだけ充血した瞳が私を捕らえる。
「おれだけ見て」
「見てるって」
「んふふ、もっと見て」
誰かさんの言葉を借りれば、クソ可愛い、というやつなのだろう。この赤ら顔も蕩けてしまいそうな垂れ目もフニャフニャだらしない口角もクッッッソ可愛いのだ。だけど、今言ったとして明日にはサンジは忘れてしまう。自身の暴走も私が話したサンジの可愛らしい所も綺麗サッパリ忘れて一人で普通の日常に戻って行く。
「悔しいなぁ」
「なにが?」
「サンジだけ忘れちゃうの」
「おれェ?なにも忘れねェよ?」
嘘ばっかりとその形の良い鼻に歯を立てる、ガブガブと甘噛みをする私にサンジは擽ったそうに身を攀じる。
「今日の君は大胆だね」
がおー、と短い爪が生え揃った右手を顔の横で丸めてサンジはケラケラと笑いながら私を押し倒す。もう一つの手はしっかりと私の頭の下に敷かれてクッション代わりになっている。
「酔っ払いは寝る時間よ」
「君と一緒じゃなきゃ、やだ」
寝ない、と子供のように首を左右に振ってイヤイヤと駄々を捏ねるサンジ。そんなサンジの姿に記憶が飛ぶタイプで良かったわね、と私は苦笑を浮かべてサンジの手を引く。そうすれば酔っ払いはコテンとバランスを崩して、私の横に転がる。そして長い手足を私の体に巻き付けてまるでコアラのように私に絡み付く。
「んふふ、だいしゅきホールド」
「……ずっと、だいすき?」
「勿論」
「その言葉は忘れちゃ駄目よ」
酔いが覚めて正気に戻ってもこの愛は変わらないでいてほしい、と思う。そんな私の繊細な気持ちを察したのかサンジは私の頭をぎゅっと抱え込み、君との約束は違えねェよ、とやけにしっかりとした口調で答えるのだった。