短編2
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前世、私は海賊だった。海賊王の船に乗り、大剣豪や世界中の海図を書いた航海士、そんな面々と肩を並べて大航海時代という過去を生きた記憶がある。嘘だと厨二乙と笑われても私は自身の過去を疑っていない、それは今世での恋人が見知った顔であり、過去に仲間だった記憶を私と同じように持ち合わせているからだ。今世での初対面を忘れる事は出来ない、以前の出会った年齢をお互いに飛び越えた頃、私達はもう諦めていた。もう今世では出会えないかもしれない、と。
『来世はさ、もう譲らねェから』
『来世?また随分と先の話ね』
夢であるオールブルーを見つけたサンジは数年後、その近くに海上レストランを構え、海賊を引退した。少し伸びた髪を潮風に揺らし、サンジは別れ際に私に来世の話を持ち掛けた。お互いにまだまだ寿命の半分も通過していないのにそんな話をしてきたのは私ともう会う事が無いと理解していたからか、それとも私に意識して欲しかったのだろうか。
『言霊ってやつかな』
『そんなものに頼るなんてらしくないわね』
『……はは、おれもそう思う』
あの時、お互いに手を伸ばせば、別の道が用意されていたのかもしれないと今では思うが当時の私達はこれがベストだと思っていた。
今世では出会えないかもしれない。そんな思いが頭を過ぎったのは出会いの年齢を軽々と飛び越え、別れの年齢を目前にしたからだった。もう、あの言霊の効力も消えてしまいそうだ、と耳に不思議と残るサンジの声を思い出しながら私は諦めに近い溜息を吐く。
「オネーサン、幸せが逃げちまうよ」
背後から掛けられた声は今、思い出していた声と似ていた。幻聴か新種のナンパか、と私は男の声に振り向きもせずにヒールをコツコツと鳴らしながら歩を進める。
「……もう譲らねェって言ったろ、ナマエちゃん」
あの当時よりも強引になった腕が私の腰を抱き寄せた、声だけでサンジと決め付けるにはまだ早い。だが、振り向いて知らない顔があったら?これがもし都合のいい夢だったら?禄でもない考えばかりが浮かぶ脳味噌を揺らすように男が私の前に顔を出す、碧眼の中に浮かぶ海を揺らしながら、あの頃と変わらないくるりと巻いた眉をハの字に垂らすその顔は間違い無くサンジのものだった。
「また、ぐるぐるなの?」
言いたい事は沢山あったのに口から出た言葉はそんなふざけたものだった。言葉とは正反対に声は湿っていて、きっと酷い声をしている。
「っ、くく、そこ?」
「だって、」
決壊してしまった涙腺、せっかく会えたサンジの顔を隠してしまう土砂降り。止まれ、止まれ、と指で雨を弾いても瞳から溢れ続けるのをやめない。雨の隙間から覗くサンジの顔は幸せとも不幸とも取れる顔をしている、今世の幸せ、過去の後悔を浮かべた顔。きっと私も同じ顔をしているのだろう。
「こんな顔させるなら奪っちまえば良かった」
サンジは私の雨を指で受け止める、レディを傷付けられないその手は相変わらず優しくて余計に涙が止まらなくなる。
「あの時に言えなかった言葉があるんだけどさ、聞いてくれる?」
「ん」
「おれはずっと君を愛してるし愛してた、今のおれも勿論そうだよ」
一生と二十年と少し、待たせてごめんね、とサンジは私を抱き寄せた。待たせ過ぎだ、と文句を言いながらもサンジのジャケットを握り締めて泣きじゃくる私はもう一生この手を離す事は無いのだろう。