短編2
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おはようとおやすみ、私とサンジの決まった挨拶がある。おはよう、そう言って恋人同士でも無い男女がギュッと体を寄せ合ってハグをする。おやすみ、そう言ってまた私はサンジに嘘をついて抱き着くのだ。
「私の故郷ではおはようとおやすみの挨拶の時にハグをするの」
こんなの全くのデタラメだ、そんなものは一切存在していない。ただサンジへの下心を隠蔽する為だけの嘘だ、告白する勇気すら持ち合わせていない私のたった一つの抗いでもある。元々、女性限定で疑う事を知らないサンジは私の嘘にもまんまと引っ掛かり、嘘の挨拶を持ち掛けたその日から一日たりとも欠かさず、私をその長い腕の中に閉じ込めてくれる。
「朝から君をハグ出来るなんておれは幸せものだ」
「いい夢を、レディ」
そんな甘いサービス台詞を付けられてしまってはもうネタバラしをする気にもならない、いつまでもこの嘘に甘えていたくなる。
だが、嘘は嘘だ。いつかは終わりが来る。
「……えっと、ナマエちゃん、君の故郷の挨拶ってナミさん達にはしてねェって本当?」
今、この場所には二人しかいない。私はサンジにおやすみを伝える為にキッチンに顔を出して、そして普段と同じようにサンジの腕の中でおやすみを伝えた。そこで返ってきたのは挨拶でもサービス台詞でもない、嘘に気付いて私を不審がるサンジの言葉だった。
「……ごめんなさい」
「いや、怒ってるわけじゃねェよ。ただ、理由を聞きてェなって」
サンジは嘘に気付いているのに私を離そうとはしない、離したら逃げられるとでも思っているのだろうか。
「ね、教えて」
耳に顔を寄せて甘い低音を鳴らすサンジ、そこで話されると耳を擽られているようで落ち着かない。
「ん、っ」
自身の口から反射的に声が漏れて、つい口元を手で覆う。そんな反応をする私にチラリと視線を向けたサンジはそれはもう良い顔をして私の言葉を待っている。
「……言いたくないって言ったら?」
「んー、おれが良いように受け取っちまうけどそれでもいいの?」
「良いように、って」
「毎日遠回しにハグを強請る程度にはおれのこと好きって自惚れてもいいかい、レディ?」
自惚れと言いながらも私の顔を覗き込むサンジの顔はもう答えを知っているようだった、嘘で隠した恋心はもう既に暴かれてしまった後のようだ。もう、ここからどう修正したって無駄だろう。
「……挨拶が無くても、サンジに触れていいかしら?」
「それは仲間のハグ?恋人の触れ合い?」
後者だったら最高ね、そう言って私はサンジの背中に腕を回した。おやすみの挨拶の代わりに今まで寝かせておいた好きを舌に乗せて、私はサンジの腕の中で分かりきった種明かしをするのだ。