短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
沈んでいた意識がフッと浮上する、ゆっくりと重たい瞼を開ければ薄暗い天井が目に入った。横にある大きな窓からは月明かりが部屋を照らす、寝起きの目には少し眩しくて眉間に皺を寄せて目を細める。普段、生活する船よりも飛び抜けて背が高いホテルの一室では月明かりを遮るものなんて一つもなく、余計に明かりが眩しく感じる。真っ白なシーツが素肌を撫で、柔らかなベッドが気怠い体を優しく受け止めて幾分かダメージを軽減してくれる。
「ん……」
身じろぎをすれば、腰中心にずしんと甘い重みが走る。先程までのサンジとの行為が鮮明に脳裏に浮かび、つい反射的にシーツに顔を埋める。あられもない姿でよがる自分自身の姿が想像出来て、つい頬に熱が集まる。
「…… ナマエちゃん?」
起こしちまった?と隣から掠れた低音が聞こえてくる。体を起こして、ベッドの端に座ったまま煙草を咥えているサンジは空いた方の手で私の輪郭を確認するように指を滑らせる。
「無理させちまってごめんね、君が綺麗で今日も加減に失敗しちまった」
「ふふ、成功出来る日はいつかしら」
「……あー、一生ねェかも」
海賊暮らしをしていれば滅多に二人っきりになれるタイミングは無い。島での食料調達もあるサンジとは二人っきりで甘い甘いデートとは中々いかず、こうやって二人っきりになるタイミングを掴んだラッキーな日はお互いに相手を求め過ぎてしまう。
「体、辛ェだろ?まだ、寝てていいよ」
行為が終わった後のサンジはひどく甘い、普段だって通常の甘さに砂糖を加えて生クリームを足したぐらいのデロデロ具合なのにこういう時の優しさは特に甘く胃もたれを起こしてしまいそうだ。
長い指がいつまでも私の頬を求めて、時折気まぐれに鼻の頭や目元を悪戯に擽る。戯れついてくるその指が好きだ、大事にされていると自信が持てるから。その反対側の指はいつものように煙草を挟んでは口元に運び、紫煙を吐き出す。だが、行為後に吸うこの一本だけは普段の一本と違って、嗜好品を吸っているようには見えない。
「ベッドで吸う煙草は不味い?」
「いいや、美味いけど」
だけど、これは贖罪だから、と言葉を続けるサンジ。
「しょくざい?」
サンジは誤魔化すように笑うと私の頭に手を伸ばし、くしゃりと撫で回す。そんな事で誤魔化されてやるものか、とムッとした顔をして私はサンジに問い詰める。何の罪だ、と。
「天使をおれの手で穢した罪」
そう言ってまたサンジは口元に煙草を運び、自身の肺を汚す。
「残念、私に羽根は無いの」
「おれのせいで抜けちまったのかも」
ベッドに片手をつき、起き上がる。そうしてサンジの指の間で短くなっていく煙草に手を伸ばす。
「だぁめ」
すぐに紫煙が離れていき、ベッドサイドに置かれていた灰皿に消えていった。まだまだ吸えた筈なのに、とサンジを睨めば柔らかい眼差しが返ってくる。
サンジの腕によってベッドに逆戻りする私の体、同じように隣にサンジが寝転ぶ。私の頭の下に鍛えられた腕が差し込まれ、素肌が触れ合う。
「煙草なんて吸っても良い事なんてねェよ、肺を汚すだけ」
「あなたがそれを言うの」
「はは、確かに」
布団を掛け直すとサンジはそっと私の唇にキスをする、舌は絡まないが決して軽いキスとは言えない深いキスだ。
「……ん、っ、煙草の味」
「また穢しちまったね」
この優しいキスが私の肺を汚すのなら、私は羽根なんていらなかった。欲しいのはサンジの甘くて苦い愛だけだった。