短編2
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「はいはい、ダイエットね」
まるで聞き飽きたとでも言うようにサンジは蔑ろな返事を返してくる、そんな態度を取られた私はムスッとした顔でサンジの目の前に立ち、こう宣言する。
「今回は本気だから!」
「前回も聞いた台詞だね」
さて、今回は何日持つかな、そう言ってサンジは不貞腐れたような顔を継続している私の頭をポンポンと撫でると意地の悪い笑みをこぼす。
「今回は一週間に一万ベリー♡」
「っ、絶対痩せるんだから!」
サンジはスラックスの尻ポケットから財布を取り出すと中から一万ベリーを取り出して札にキスをする。
「なら、前賃でも渡しておこうか?」
私からの睨みから逃げるようにサンジは一万ベリーを持った手を顔の横に上げて後退る。冗談だよ、レディ、と笑う顔は相変わらず胡散臭い。そんなサンジのネクタイを自身の方に引っ張ると私はその額に勢い良く自身の額を当てる。
「……ッ、テェ」
「惚れ直す準備でもして待ってなさいよ」
その日から私のダイエットは始まった、口だけだと思っている恋人をギャフンと言わせる為に私は闘志を燃やす。いつもサンジの甘い誘惑に負けて最短で三日、最長で二週間、最高で二キロ、ほぼ誤差で終わったダイエットの歴史に終止符を打つのだ。はじめの頃はサンジだって顔を真っ青にしていた、君が減る、ダイエットなんて必要ねェ、と必死に私を説得する側だったのにダイエット(仮)を数回を超えた今では半笑いで煽ってくる始末だ。どうしてこうなった、と文句を言ったところで原因はズボラな自分自身のせいだ。サンジは別に私が太っていても痩せていても態度を変えない、私を抱き上げて正確な数字を当てる特技があるサンジには私の体重は筒抜けだ。今の取り返しのつかない体重だって触れて来ないだけで把握済みなのだろう。それが何だか悔しかった、太った事に触れて欲しいわけじゃないが私の全てに一喜一憂していた頃のサンジが恋しい。
「(……私ばっかり好きみたい)」
付き合った当初よりも素敵になった、余裕があり、甘さの中にスパイスのような狡さが垣間見えるようになった。私ばかりがサンジの手の上で踊っているようで悔しい。
ダイエットの天敵から逃げ切って私は二週間をクリアした、天敵というのはサンジだ。こちらの反応を楽しむようにあの手この手で誘惑を仕掛けてくる、その度にナミやロビンの後ろに隠れ、そっぽを向いて誘惑を振り切った。サンジから渡された一万ベリーに口付けをひとつ落として、私は二週間前よりも少しだけ変化した体を見せ付けるようにサンジに絡み付く。
「ね、言ったでしょ?」
サンジの手が自身の体に触れる前に私はサンジから離れる。
「え?」
「ダイエットが成功するまでお触り禁止」
「……禁断症状が出ても?」
君に触れないと駄目になっちまうんだけど、と特徴的な眉毛を下げるサンジ。待てが下手な犬のような表情に普段は流されてしまうのだが今回の私はひと味違う。キッパリと断って、その伸びてくる腕から逃げるようにキッチンを飛び出した。
「……流石に大袈裟過ぎない?」
ショーウィンドウに映った私の服装はこれまた際どいものだった、男の視線は百発百中で露出した手足かダイエットの犠牲にならなかった胸や尻に向けられるだろう。選んだのはナミだ、もっと布が欲しいと訴える私にナミは問答無用でこのワンピースを押し付けてきた。サンジくんの反応が楽しみね、と。確かに楽しみではあるが、少しだけ怖い気持ちもある。サンジの周りにはナミやロビン、そして島に下りれば、ダイエットなんて経験した事が無さそうな美人がそこらじゅうにいる。ランク付けしたらどの辺りに今の私は入れるんだろうか、サンジの瞳が私以外を追ってしまう事が怖かった。そんな事を考えていれば、後ろから腕を引かれる。
「サンジ」
そう言って振り返った先にいたのはサンジではなく、若い男だった。テンプレのようなナンパ台詞を吐きながら男の視線は私の体をなぞる、視姦とでも言えばいいのか、舐め回すような視線に背筋がぞくりとする。
「……テメェ、おれより先にナマエちゃんに触れていいって誰が言った?」
風圧が頬を撫でる、地を這うような低音と同時に視界に入って来たのは煙草の煙を燻らせながら男のシャツの襟首を持ち上げるサンジだった。
「サンジ!この人、一般人よ!」
「だから?」
私は先程とは違った意味で背筋に冷たい汗をかく、恋人が一般人を殺めてしまうかもしれない恐怖にだ。私は男の襟首から乱暴にサンジの手を離させて無理矢理引っ張り、その場から離脱する。
先程の場所から離れた私は黙ったままでいるサンジの顔を覗き込む。
「怒ってる?」
「君の危機感の無さは今更だよ」
「……怒ってるじゃない」
「ここに来るまでに一体何人の男が君に目を奪われたんだろうね、君はどう?満更でもない感じ?」
サンジの責めるような言い方に私は何も言えなくなってしまう、自身のヒールの爪先に視線を落として声にならない否定を繰り返す。
「……おれの君なのに。おれは君が痩せてようが太ってようが君に夢中だし一生おれの心は君に向かってるのに、君はどんどん綺麗になっておれ以外の奴からもモテちまうし、挙げ句の果てには何ヶ月もお預け食らったおれより先に気持ち悪ィ野郎に触られてるし、」
「……サンジ」
「おれね、君に見惚れてたんだ。待ち合わせ場所に着いて早く声掛けなきゃいけねェのに、君が綺麗だから動けなくて……っ、クソ、それで野郎に先越されて、逆ギレして本当ダセェ……」
サンジはその場にしゃがみこむと自身の膝に顔を埋めて、遅くなってごめんね、と消え入りそうな声を出す。
「惚れ直してくれた?」
「……見りゃ分かるだろ」
「サンジの口から聞きたいの」
君を今すぐしまっちまいてェぐれェだよ、そう言ってサンジは私の手を力無く握って余裕の無い表情を浮かべるのだった。