短編2
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「駄目女製造機、駄目女の療養施設にでもなったつもりなの?」
「……もっとオブラートに包んでもらえねェかなァ、ナミさん」
苦笑いを浮かべるサンジはそう言ってグラスを傾ける。サンジの正面に座るナミは目が座り、ほとんど出来上がっている状態だ。そんなナミの手からグラスを奪い取って水が入ったグラスに交換させていれば、ナミの視線がサンジから私に移動する。
「あんたも駄目女なの?」
「風評被害」
「だって、サンジくんと付き合ってるって事はそういう事じゃない」
「私にもサンジにも失礼よ」
ほら、水、と厄介な酔っ払いの口に水が入ったグラスを持っていけば大人しくゴクゴクと喉を潤すナミ。きっと、もう既に酒と水の区別はついていないだろう。私はサンジと目を合わせて、困ったように笑う。
「酔っ払いって厄介ね」
「あはは……」
饒舌なのはあと数分、数分もすればナミは寝落ちてテーブルにキスするのが目に見えている。この流れが飲みの定番と言っても過言では無い。
まだ飲むと真っ赤な顔をして暴れるナミを女部屋に運び、眠ったのを確認してから私はサンジの元に戻る。先程の会話の尾を引いているのかサンジの表情はどこか浮かない、ちびちびとグラスの中身を消費してはグラスの水面に視線を落とす。
「甘やかすのって難しいよな」
サンジの語った過去の恋愛話はどれも恋愛というよりも救済のようだった。サンジの底無しの優しさに包まれ、注がれ、一人で立ち上がれるようになるまでの療養施設。皆、そこで自己肯定感や自尊心を育てる。そして、育て切ったらサンジの役目は無くなったと言わんばかりにサンジを置いて他の人間の元で恋愛ごっこを始めるのだ。
「……優しいだけの男は数ヶ月で用無しだとさ」
「きっと今頃、後悔してるわよ」
「はは、どうだろ」
グラスをテーブルに置いたサンジは私に手招きをする。そして、自身の膝をポンポンと叩き、こう言った。
「おいで、ナマエちゃん」
私はサンジの膝に座ると両腕をその首に回す、そして、その片目を隠す髪を退かし瞼に口付ける。くすぐってェ、と笑うサンジの両の目を見つめ、その奥に隠れた本音を探る。
「……君はさ、来年もその先もおれの傍にいてくれる?」
「えぇ、あなたが望んでくれるなら」
腹に回された腕に力が入る、必死にしがみついているサンジの震える腕に気付かないフリをして私はそう答えた。
「おれだけって言って」
面白みも無ければ、こうやって君に縋りついて困らせている馬鹿な男を愛して、とサンジは私の肩に頭を擦り付ける。乱れた金髪を整えるようにその頭をゆっくりと撫でれば、サンジの肩が揺れる。
「私、ナミが言うように駄目な女なの」
「……駄目なのはどう見てもおれだけど」
「だって、今、あなたが必死になっているのを見て嬉しいって思っちゃったの。ふふ、嫌な女でしょ」
サンジは顔を上げると信じられないものを見るように私を見る、流石にこの発言は引いてしまっただろうか。
「君は女神みたいだね、こんなおれを許してくれる救世主」
「……今までのあなたは救われた?」
そんな傲慢な私の質問にサンジは憂いの消えた表情で頷く。君が唯一だってまた確信したよ、そう言って私に口付けるサンジ。たった一つ手元に残った愛は互いの唯一であった。