短編2
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「あ」
私がそう声を上げた時にはもう遅く、目の前に立っている恋人はやけに浮かれた顔をして片手を頭上に掲げていた。私が背伸びをしたって届かない位置まで手をピンと張って、へぇ、と冷やかすような声をあげるサンジ。
「いいね、これ」
何もよくないわよ、とサンジのシャツの裾をクイクイと自身の方に引いてもサンジはお構い無しと言った様子で未だに自身の筋張った手の甲を愛おしげに眺めている。
「早く洗いましょうよ」
「んー、断る」
語尾にハートマークを浮かべたサンジは幼子がお気に入りのおもちゃを隠すように手を自身の背中に隠した。ジリジリと私が距離を詰めても、笑みを深めながら器用に玄関に続く廊下をステップを踏むように逃げ回るサンジ。
「今日はこのまま出掛けるから心配しなくていいからね」
「心配が的中したわ」
私は痛んだ頭を押さえながら溜息を吐く、こういう事になるから嫌だったのだ。なのに、サンジは私の内心に気付いていないのかこちらにウィンクを飛ばしながらこう口にした。
「君の、って印みてェだね」
「……ッ、ばか」
サンジのせいで顔が熱い、段々と熱が耳や首にまで伝わってくる。そして、私は数分前の自身の軽率な行動を恨めしく思う。普段サンジから甘く蕩けるような愛情を注がれ続けているせいで自身の頑なだった思考は毒されてしまったようだ、気付いた時にはサンジの筋張った手を掴み、その真っ白な手の甲に口付けていた。だが、それだけだったら問題ではない。悪かった点を挙げるとするならば問題はただ一つ。自身の真っ赤な口紅がベッタリとサンジの手の甲にキスマークを残してしまった事だ。綺麗に自身の唇の痕が残った手の甲をヒラヒラさせてサンジは狡い笑みを浮かべてこう口にした。
「レディ避けかい?」
確かにサンジはモテる、黙っていれば優良物件間違い無しだ。それに自身と付き合ってからは女性に対しての異常な崇拝心も鳴りを潜めてナンパ癖も無い。そのせいか、嫌味な程にモテるのだ。優しく紳士で顔立ちも悪くない、その不思議な眉毛だってチャームポイントになってしまう。
サンジは何がそんなに嬉しいのか、普段よりも機嫌が良い。浮かれた鼻歌が先程から飛び出しては消えていく、そして手の甲を電気に翳してみたり、私の睨むような視線から逃げるように手の甲を背中に隠したりバタバタと落ち着きが無い。
「あ、やっべ」
手元のスマートフォンを覗き込みサンジは時間を確認する、そして玄関に並べられた革靴に足を通してこちらに体を向ける。
「本当にそのまま行くの!?正気!?」
「あァ、見せびらかしてくるよ」
サンジはそう言って私の頭の後ろに何も付いていない方の手を回し自身の方に引き寄せる、そして何か言いたげな私の半開きな唇に蓋をするように口付けた。そして、キスマークが付いた手をヒラヒラと振りながら玄関から飛び出すのだった。