短編2
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サンジは奇病を患っている、奇病といったってそれはサンジ本人が言っているホラである。病名を聞けば、皆同様に呆れた顔をするか馬鹿馬鹿しいと溜息をつくかの二択だ。
「ナマエちゃんに触れないと死ぬ病」
その奇病の治療薬は勿論、私である。こんな病気があってたまるか、とサンジの手を払い落とせば、サンジの顔は途端に萎れて床にぺしゃりと体を崩して、おいおいとみっともない醜態を晒す。毎日、毎日、起こる発作は私に触れる為だけの口実だ。
「スキンシップ過多で死にそう」
そう言って溜息を吐く私にロビンは口元を手で隠しながら、くすくすと柔らかく笑う。
「わたしには嬉しそうに見えるけど」
「どこが」
「だって、あなたいつも本気では嫌がってないもの」
自分に嘘をついちゃ駄目よ、とロビンの細長い指が私の頬を撫でる。
「ロビンもスキンシップ?」
「ふふ、サンジに影響されたのかも」
「ロビンなら大歓迎よ」
ロビンの手の上に自身の手を重ねて頬を擦り寄せる、まるで本物の姉妹のようだとロビンは照れ臭そうに笑った。
サンジに触れられると照れが先に来る。同性のロビンに触れられるのと違って、その指の熱だったり水仕事で少し乾燥した指先だったり些細な箇所が気になるのだ。それが嫌なわけではない、ただ、緊張してしまうのだ。抱き締められれば自身との体の大きさの違いにサンジを意識してしまうし、唇が触れてしまえば煙草の苦さとは裏腹に甘い毒に体中が犯されたような感覚を覚える。
「まだ君が足りねェ」
サンジは私を後ろから抱えて、そのシャープな顎を私の肩に乗せて機嫌良く鼻歌を歌う。音程が少し外れた鼻歌はやけに楽しそうに弾んでいる。私は1頁も進まない小説を横に置くとお腹の前で組まれたサンジの筋張った手に触れる、自身の手よりも随分と大きな手だ。指の長さはまったく違うし、爪の大きさだって違う。サンジの深爪を指でなぞれば、私の指はサンジの右手に捕まる。
「君を傷付けねェ為」
鼻歌は止み、サンジの甘いガラついた低音が鼓膜をなぞる。サンジの指が私の指に絡まり、恋人繋ぎの形を作っていく。
「悪化する一方ね」
「ん?」
「私に触れないと死ぬ病」
「君への愛が止まらねェ自分が怖ェよ、ずっと触れてェ」
お互いの熱で一つになれたら楽なのにな、そう言ってサンジはキャミソールから出た私の肩に触れるだけのキスをする。擽ったさに身を攀じれば、お腹に回された片腕にギュッと力が入る。壊さないように力加減されたその優しさがまた私の心を擽る。
「一つにはなれないよ」
「はは、バッサリ」
「だって、そしたら触れられないもの。こうやって手を繋いだり抱き合ったり、キスしたり……」
私がそう口にすると背後にいるサンジは長い溜息を吐いた、そして先程よりも強い力で私の体を抱き締めた。少しだけ痛い抱擁にサンジの腕をペシペシと叩くがサンジからの応答は無い。
「デレ過多で死ぬかも」
「死ぬ前に腕を緩めてくれるかしら?」
「離してじゃなくて?」
きっと、背後でニヤニヤしているであろうサンジの顔を見るのが恥ずかしくて私は自身の膝に視線を落とす。
「……ロビンに影響されただけよ」
「エッ、ロビンちゃん!?」
「サンジは知らなくていいの」
わたしには嬉しそうに見えるけど、そう口にしたロビンの声がまた脳内で響く。きっと、今の私はそういう顔をしているのだろう。この人に触れてもらえるのが嬉しい、と口元をみっともなく緩めている自身を想像して両手で顔を覆った。