短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
前触れなく自身に訪れるイヤイヤ期、イヤイヤ期なんて言ってしまえば子供のようだが否定も出来そうに無い。手足をバタつかせて嫌だ、嫌だ、と喚くような真似はしないがテーブルに突っ伏してサンジからの気遣いを嫌だ、嫌だ、と断る私は面倒臭い子供と変わりない。頭では感謝も気遣いも出来るのに口からは真逆の嫌しか飛び出さない、忙しい日々にクタクタになってしまった心が引き起こしたバグとでも言えばいいのか、たまにこういう不具合を起こしてしまう。
「嫌なら仕方ねェよなァ」
サンジは普段通りの甘い声を出してそんな情けない私を許してくれる、背後に回ったサンジはペシャリと潰れる私を後ろから抱き締めてお腹の前で手を組む。
「……重い」
「おれの愛が?それともおれ?」
「どっちも」
サンジの胸板に寄り掛かるように頭を預ければ、こちらを覗き込む碧眼と視線が重なる。
「おれの体重の半分は君への愛情って言ったら笑う?」
愛おしむように私を見つめるサンジ。今の言葉だってサンジが言うと冗談に聞こえない、私はその碧眼を見つめながらこう口にした。
「もう半分は?」
「君を支える為の血肉とか臓器諸々」
「ふふ、急に生々しい」
そんな事を言われたら仏頂面でいる方が難しい。口元を片手で隠しながら私はくすくすと笑みを溢す。
「まとめると全部、君だけのおれ」
だから寄り掛かって大丈夫だよ、とサンジは腕に力を込める。これ以上、寄り掛かったら迷惑になるでしょ、とサンジの優しさを押し返せば、また甘い声が私に降り掛かる。
「ぜーんぜん」
「……またそうやって甘やかす」
「甘やかしてねェよ、おれが君に甘えてるの」
誰が見たって逆の状況だ。だが、サンジはそう言って譲ろうとはしない。肉の薄い頬を私の頭にスリスリと擦り寄せて自身の言葉を本当にしてしまうサンジ。
「な?」
「……後出しじゃない」
擦り寄せてくる頬に手を伸ばして、その柔らかくもない頬をむにゅりと摘む。両サイドに軽く引っ張れば、その間抜け面がへにゃりと余計に崩れる。やめろ、と手を振り払えばいいのにサンジはされるがままだ。しかも、満更でもない様子でフニャフニャと笑っている。
「(私って単純に出来てるのかも)」
先程まで全てを投げ出したいと思っていた筈なのにサンジの気の抜けたような顔一つで俯きがちだった心が上を向き出く。
「おりぇせりゃぴー」
サンジの頬を解放すれば、サンジはもう一度こう口にした。
「おれセラピーは君に効いてるかい、レディ」
「サンジセラピー……?」
「ほら、疲れにはアニマルセラピーって言うだろ?」
だけど、犬猫はおれが妬いちまうから駄目、と続けるサンジは私の手を再度、自身の頬に持っていく。
「いっぱい触って撫で撫でして、レディ」
きゅん、と自身の胸からときめきが踊る音がする。自身よりも大柄な髭面の男を掴まえて可愛いは無いだろうと自身に言い聞かせるが今の疲れ切った私には犬猫なんて目に入らない程にはサンジが一番可愛く見える。
「かわいい……」
「君の次にね」
碧眼に浮かぶハートマークに目を奪われながら私はサンジに手を伸ばす、可愛い可愛い恋人に癒やされる日も悪くないのかもしれない。