短編2
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「ポーカーに勝ったら結婚して」
「はいはい」
相変わらずツレないなァ、と肩を竦めるサンジを無視して私はカードに手を伸ばす。サンジの「結婚して」という言葉はもう口癖の域だ。1年は365日、その間で私は365回のプロポーズをされては365回断っている。○○したら結婚して、○○に勝ったら結婚して、と冗談のようにヘラヘラとプロポーズを寄越すサンジは一定の言葉を繰り返す五月蝿いオウムのようだ。
「先に付き合う方が先じゃない?」
「なら、付き合ってくれる?」
「お断り」
「ほら、やっぱり」
この会話だって数え切れない程している、もう飽き飽きしている程に。だが、サンジは諦めずに明日もこのやり取りを繰り返す。
「それに何で私なの」
「お、365回目にしてやっとおれに興味持ってくれた?」
「回数まで覚えててよく諦めないわね」
おれが打たれ強くて良かったね、と笑うサンジ。きっと、この言葉だってただの冗談だろう。誰にでも良い顔をするナンパ野郎、と言えば態とらしく心臓を押さえるサンジ。
「ウッ、おれの心臓はガラスのハートだよ、レディ」
「打たれ強いから大丈夫よ」
心配する素振りも見せずに淡々と雑な返事を返す私はこんなにも可愛くないのにサンジは暇潰しの道具を見つけるのも下手らしい、ナミやロビンの方がマシな反応を返す筈なのに馬鹿な人。
「……っ、ナマエちゃん」
こんな日常が続くと思っていたのに目の前にはスーツのあちこちに血を滲ませたサンジが私の盾になっている。敵の攻撃は容赦無くサンジの体を突き刺す、その度にサンジの低い呻き声が漏れる。私の服に飛び散った血は全部サンジのものだ、私は擦り傷程度の怪我でおさまっている。サンジ、サンジ、と馬鹿の一つ覚えのようにその背中に呼び掛けてもサンジはそこを退かない。大丈夫だから、と笑うばかりだ。
「おれが勝ったらさ、ナマエちゃん結婚して」
「馬鹿ッ、今そんな事言ってる場合じゃないでしょ……!」
「前に君が何で私なのって聞いただろ?」
確かに言ったが今はそんな事を呑気に話している場合ではない、敵は待ってくれないしサンジの全身の怪我は見るからに酷い。
「おれの初恋って言ったら信じてくれるかい?」
「は」
サンジは敵を蹴飛ばしながら信じられない事を言う、私も応戦しながらサンジの言葉に耳を傾ける。
「君がおれを好きじゃなくてもいつか頷いてくれたらって馬鹿みてェに信じちまったんだ。だから、毎日押し掛けては毎日、期待してた」
今日の君はもしかして頷いてくれるかもって、そう言ってサンジは特徴的な眉を下げて笑った。
「諦めが悪ィ男でごめんね」
きっと、死なねェ限りは君を諦めきれねェ、とサンジは言う。今の状況でそんな事を言うサンジは不謹慎極まりない。
「なァ、ナマエちゃん」
最後に夢を見せてくんねェかな、とサンジは私の方を振り返る。こういう時ばかり真剣な声を出すサンジ。
「っ、ちゃんとサニーに帰ってからじゃなきゃ嫌よ!」
「……っ、くく、りょーかい。君からの頼みなら断れねェな」
サンジは背筋をグッと伸ばして、どこにそんな力が残っていたのか敵に突っ込んで行く。そして、もう一度こちらを振り向いて甘い微笑みを浮かべて私に愛を叫ぶ。君と結婚する為に生まれてきた、と。