短編2
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先に目覚めていたサンジの機嫌は最低だった、携帯灰皿から煙草の先端が顔を出すのが先か煙草を切らすのが先か、そんな場違いな気持ちを抱いたまま私は真っ白な部屋で転がっている。天井も床も先が見えない白一色、ずっとここに居たら気が狂ってしまいそうだ。そして、極めつけは壁に表示されたイカれた掲示板だ。サンジの不機嫌の原因でもあるその掲示板にはこう記されていた。片方が死なないと出られない部屋、と。目覚めて一番はじめに思ったのはサンジが死んでいなくて良かった、それだけだった。サンジは私を生かす為なら平気で目の前に転がっているナイフや銃で自身の心臓を止めてしまうだろう。狡い私は寝たフリをして苛立ったサンジの横顔を見つめている。万が一、サンジがナイフを手にした時に止められるように。
クソ、と胸糞悪そうにサンジは扉を何度も蹴る。煙草はもう既に切れてしまったのか、空のケースと携帯灰皿だけが床に転がっている。
「サンジ、脚が傷付くわ」
「……ナマエちゃん」
こちらを安心させるように笑うサンジ、その笑みはサンジらしくない失敗したような笑い方だった。大丈夫だよ、大丈夫だから、と繰り返すサンジの方が大丈夫そうには見えない。私はサンジに手招きをして、こちらに来るように伝える。
「ナマエちゃん……?」
「大丈夫よ、二人とも死なない」
隣に座り込んだサンジの背中に腕を回して、落ち着かせるように背中を擦る。自分以外が焦っていると落ち着いてしまうというのはどうやら本当らしい、そのお陰と言っていいのか、今の私は通常よりも落ち着いている。
「タイムリミットは無いみたいだし二人で考えましょ、どちらも死ななくて済む答えを」
「君はやっぱり幸運の女神だね」
「幸運だったらこんなクソ部屋になんていないわよ」
そう言ってサンジの肩に寄り掛かれば、お口が悪ィ君も素敵だ、と場違いな返事が返ってくる。目を閉じてサンジの声だけを聞いていれば、此処は真っ白な空間ではなくサニー号のキッチンのように暖かい。
「このまま寝たらキッチンで目を覚ましたりしないかしら」
「あ」
突然、サンジは何かを思い出したように声を上げる。
「どうかしたの?」
「……眠りは小さな死、睡眠は死の疑似体験だって言葉を聞いた事があったなって君の言葉で思い出した」
サンジは真剣な顔をしてこちらを見る、その顔を見ればサンジのしたい事なんてお見通しだ。
「上手くいくかは分からねェけどさ、試してみる価値はあると思うんだ」
「眠りは小さな死、目覚めは小さな誕生」
そう言って、私はサンジの膝に座り込む。そして、こう伝えるのだ。あなたが私を寝かし付けて、と。
「……いいのかい?」
「あなたのキスで起こしてくれるなら」
「っ、くく、眠り姫を起こすのはいつだって王子の役割だからね」
サンジは私の背中をトントンと叩き、そして優しい声でゆっくりと紡ぐ。小さな死の訪れを待ち望む歌を。
「……おやすみ。次はキッチンで、ね」