短編2
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切り過ぎた前髪は眉毛と額の真ん中で風に靡いている、良好な視界とは裏腹に私の気持ちは落ち込むばかりだ。短い前髪に伸びろ、伸びろと念を送りながら下に引っ張る。だが、今さっき切った前髪に念は効かない。寄せた眉間の皺が丸出しで私の気分は下がっていく一方だ。
「お、新ビジュ」
なのに、サンジはワクワクした顔を隠しもせずに私の前髪に触れる。切り揃えられた前髪の表面をさらりと撫でて、可愛い、と甘い溜息をこぼす。
「可愛くて困っちまうね」
「……切り過ぎちゃったのよ」
「あれ、納得してねェ感じ?」
だって、と落ち着きなく前髪を触る私の手を退かすとサンジはその丸出しの額に口付ける。
「こんなに可愛いのに」
普段だったらサンジの可愛いという言葉を素直に受け取る事が出来るのに今の私にはそれが少しだけ難しい。
「サンジは何でも可愛いって言うじゃない」
性別が女であれば無条件に可愛がるくせに、そんな八つ当たりめいた不満を口にしたってサンジは嫌がるどころか私の尖った唇をつんと人差し指で突く。
「そこは君だからだよ、性別なんて関係ねェ」
そんな事、口にされなくても分かっている。だって、付き合ってからはサンジの態度が一層甘くなった。女という枠で自身が一番だと感じれる程にサンジは私に惜しみなく愛情を注ぐ。
「理解してくれた?」
分かりきった答えを待つサンジはそれはもう楽しそうに鼻歌でもこぼしそうな顔をしている。そうね、と素っ気ない返事を返せば、また額に唇が触れる。
「いい子」
「あ、」
「ん、どうかしたかい?」
切り過ぎた前髪のメリットに今更、気付いてしまった。
「貴方の顔が見やすいの」
視界は良好、気分は急降下だった筈なのにサンジの喜怒哀楽全開の百面相を見てしまえば気分のグラフはぐんぐんと上を向く。サンジは私の頬に手を添えると、もっと見て、と顔を近付けてくる。
「っ、くく、何で逸らすの」
無自覚なのか、計画犯なのか、サンジは私のツボを突くように甘やかな視線を送ってくる。そして、額に再度口付ける。その柔らかな唇は私の肌をなぞるように瞼に鼻、そして頬に落ちてくる。
「キス魔」
「否定は出来ねェな」
「恥ずかしい人」
「そんな恥ずかしい奴にキスされる気分はどうだい?」
最低の反対だ、とまた気恥ずかしさに素直じゃない言葉を吐き出せば、甘い表情は一段と甘くなるのだった。