短編2
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ガチャリと鍵が開く音がする、その音に導かれるように私は玄関までの短い廊下を小走りで進む。飼い主の帰りを喜ぶ犬のように恋人であるサンジを出迎え、見えない尻尾をブンブンと振りながらサンジにおかえりなさいと声を掛ければ、サンジは倒れ込むようにして私の体を抱き締めた。私の肩に顔を埋めてセットが乱れる事も気にせずに頭を擦り付けてくる、深く息を吐きながら私への好意を撒き散らかすサンジに私の頬はだらしなく緩み、ニヤニヤが収まりそうにない。
「はーー癒やされる」
「ナマエちゃんの癒やしパワーエグすぎねェか」
「今日も君の腕の中に帰れるおれは世界一幸せな男だ」
おかえりなさい、とその少しだけ草臥れた背中をポンポンと叩けば、繁忙期という荒波に揉まれたサンジの瞳から涙がポロリとこぼれる。
「結婚しよっか」
涙で揺らめいた瞳を穏やかに細めるサンジとは裏腹に私はサンジの涙と突然のプロポーズにあたふたと慌てるばかりだ。勢いで口にしてしまう程、今日の仕事は大変だったのだろうか。あまり家に仕事の愚痴を持ち込まないサンジだからこそ心配になってしまう。
「っ、くく、こんな玄関先じゃ信用出来ねェ?」
「いきなりだったから、ビックリしちゃって……」
サンジの言葉を疑っているわけではない、それにプロポーズだって嬉しい。もし、これが悪い冗談だったとしてもサンジにされたのなら私はきっと許してしまう。
「何度もさ、考えたんだ」
おれらしいプロポーズ、そう言ってサンジは私の頬に手を伸ばす。見上げた先にはサンジの柔らかな碧が揺れている。
「だけど、浮かぶのはプランなんかじゃなくて君の顔ばっかりだったよ」
洒落たレストランも気取ったプロポーズの言葉も君の前ではくすんじまう、とサンジは言う。
「……だから、今?」
「気付いたら口から出てた」
君とこうやって毎日愛し合う方法を考えていたらさ、おしゃべりな口が君に永遠を誓っていたよ、と。そう口にするサンジの顔には後悔なんて一つも浮かんでは来なかった、後悔どころか浮かんでいるのは私へのたった一つの誠実さだけだ。
「嫌だったかい?」
「ビックリはしたけど、嫌じゃないわ」
いつだってサンジは私への愛を出し惜しみしたり、渋々口に出すような事はしなかった。いつだって本心と共に私を求めてくれている事だってちゃんと伝わっている。
「幸せにしてくれる?」
今以上に、なんて最初で最後の我儘を口にすれば正面にいるサンジの背筋が伸びる。
「勿論」
今以上に、そう言ってサンジは私と似た笑みを浮かべる。互いに似てくるというがアレはどうやら本当だったらしい。そんな場違いな感想を浮かべながら、私は目の前にいる大好きな人に飛びつくのだった。