短編2
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同じ味ばかりだと飽きてしまう、毎日の食事だってそうだ。今日が和食なら明日はワインに合う洋食がいい、無駄に肥えた私の舌はいつの間にか食に我儘になった。我儘にしたのはこの船のコック兼私の恋人であるサンジだ、無限にあるのかと錯覚してしまう献立、サンジの頭の宇宙には幾千の星の代わりに何百、何千のレシピが広がっている。
「胃袋を掴むのってどんな気分?」
我ながらよく分からない質問をしたと思う。ただ、サンジの料理なしでは生きられなくなってしまったのが何となく悔しいのだ。島に下りて食べた料理だって美味しかった、だけど、何かが足りない。
「掴まれてくれたのかい?」
その声色は確信犯である事を物語っているかのように狡い響きを含んでいる。
「策略通りかしら」
「おれの武器だからね」
サンジの腕が腰に回され、慣れた様子で私を膝に座らせる。
「やられっぱなしは悔しいわね」
「っ、くく、負けず嫌い」
口を尖らす私を見てサンジはまた笑みをこぼす。そして、私の顎に手を添えて尖った唇に自身の唇を重ねた。
「ん、っ」
「ちゃんとおれも君に掴まれてるよ」
胃袋じゃなくてこっちだけど、とサンジは自身の心臓を指差す。心臓を掴むなんて何処かの医者のようだ。きっと、サンジが言いたいのはそちらではなく心の方だろう。
「勝ち目がないじゃない」
胃袋も心も掴まれた私に勝ち目はない。お手上げだ、と降参を言い渡すように両手を上げる私にサンジはこう口にする。
「知ってるかい?」
「ん?」
「惚れたが負けって事」
他の人間が口にしたらキザで見ていられないような恥ずかしい台詞だがサンジが口にすると妙な説得力がある、元々の惚れっぽさが隠し味として良い味を出しているのだろう。
同じ味ばかりだと飽きてしまう、恋人だってそうだ。優しいだけの男も顔が良いだけの男も三日で飽きる、恋愛に対してそんな印象を抱えていた私はいつの間にかこの男しか見えなくなった。きっと、それを伝えればレシピと同じ数分の愛が頭上から降ってくるのだろう。愛の下敷きになって死ねるのなら本望だと思ってしまった私はサンジに心までも作り変えられてしまったようだ。サンジはそんな私を見透かすように目を細めると私の両頬に手を添える。
「さっきの質問だけどさ」
先程、私が問い掛けたよく分からない質問の事だろうか。
「引かねェで欲しいんだけど……」
「なぁに」
「……君を作り変えてるみてェで興奮する」
熱を帯びた視線に体がゾクッと震える、視線を逸らそうにもサンジの手に固定されている私の顔は動かせそうにない。私が言葉を発する前にサンジの唇が私の口を封じる。そして、私はもう一つ飽きが来ないものに今更ながら気付く。くどくて、甘いキスは一日だけじゃ足りない、と。