短編2
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ソファに仰向けで倒れ込んでいるサンジの表情は不機嫌を絵に描いたようだ、スラックスに包まれた長い脚はソファから飛び出し、普段ならキッチリと締められているシャツは胸元まで開けられネクタイも首に引っ掛けただけの姿だ。質のいいジャケットはぐしゃりと丸められ、サンジの枕になっている。私はそんなサンジに近付くと視線を重ねる為に床に腰を下ろし、ソファに頬杖をついた。
「サンジ」
プイッと態と逸らされる視線、背中を向けられないだけまだマシだろうと私は諦めずに声を掛ける。
「随分ご機嫌斜めね」
「そうさ、今の機嫌は最悪だ」
誰かさんのせいで、とサンジが付け足した一言は切れ味の良い刃物のように私に襲い掛かる。
「……紳士らしくない発言ね」
「紳士?さぁ、今日はそんな奴とすれ違わなかったな。きっと、何処かで羽を伸ばしてるんじゃないのかい?」
サンジの口はいつも忙しそうに動く、愛を囁いたり、楽しげに低音を揺らしたり良い意味でお喋りなのだ。だが、今日のサンジは棘を剥き出しにして嫌味を口にする。
「相変わらずお喋りね」
普段とは反対の意味で、その言葉は心の中にしまい込んだ。
「海賊からコメディアンにでも転職しようか」
「……ねぇ、まだ怒ってるの」
「怒らした自覚があるとは驚きだ。無神経な君にしては上出来だよ、レディ」
鋭い言葉が真っ直ぐに私に降り注ぐ、言葉の棘が刃物となって私を刺す。下唇を噛んで床を見つめる私にサンジは溜め息を吐いて、自身の金髪をぐしゃりと乱した。
「ごめん、言い方が悪かった」
「あの時はあれが最善だと思ったのよ」
「……君の最善はおれの最悪だ」
サンジは悔しげに顔を歪ませると私の頬に貼ってあるガーゼに触れるが、よく見ればその指先は震えている。
「サンジは傷物じゃ不満かしら?」
今なら返品可能よ、とその指先に手を添えれば、私ではなくサンジの方が痛そうな顔をする。
「おれは知らねェとこで君が傷付く方が嫌だよ」
「……傷付いたのは私よ」
「君は毎回、毎回マゾなのかい?」
「あなたみたいに女に配慮してくれる敵だったらいいんだけど」
段々とサンジの言葉から棘が抜けていく、鋭い先端はもうこちらには向いていない。
「……頼むから、傷付かねェで」
お互い理解はしている、これでも二人は海賊なのだ。自身が戦っていれば、相手だって同じように戦っている。戦いには怪我が付き物だ、大小関係無く全く傷付かないなんて無理な話なのだ。
「善処するわ」
「あァ」
お互いに「しない」とも「絶対」とも言わない、言わないのではなく言えないのだ。だから、代わりにこう言うのだ。サンジのところに帰ってくるから安心して、と。