短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
嘘が許されるのはあと数分、私は時計の針を見つめながら正面に座るサンジに何度も話を切り出そうとする。だが、私の口から言葉が音になる前にサンジの口からポンポンと話題が飛んでくる。普段、聞き役に回る事が多いサンジにしてはとても珍しい事だ。だが、それがエイプリルフールだから嘘をついてやろうだとか騙してやろうという邪な気持ちはサンジには無いように見える。
「ねぇ、サンジ」
「なぁに」
澄ましたような表情で私の顔を見つめるサンジ、その顔は私のエイプリルフールの嘘を見破っているようにも見える。まだ嘘の一つも口に出来ていないのに、ついそんな事を思う。
私は告白をしようと思っている、嘘だ、冗談だ、と茶化しながら今日、自身の恋を殺そうと思っている。冗談にすれば傷付かない、嘘にすれば気まずい船上生活にならずに済むから。それらしい言い訳を用意して私は顔を上げる、自身の膝から正面に座るサンジに視線を移し、嘘に紛れた一つの真実を口にしようとする。だが、それはサンジのせいで叶いそうにない。
サンジの指先が私の唇に重なる、突然の事に固まっていればサンジは空いた手で時計を指差す。
「あと数分待ってくれねェかな」
時計の針はあと数分で午前が終わる事を私達に教える。そして、エイプリルフールの嘘が許されるのは午前中だけだ。
「嘘にしたくねェから」
こちらを真っ直ぐ見つめてくるサンジに嘘は無い、今の言葉だってエイプリルフールだからといってひっくり返す必要は無いのだろう。
「逃げ場はゼロね」
「行き着く先も逃げる先もおれの胸だったらいいな」
告白はさせてくれないのにサンジは先走った返事を寄越す、その蕩けるような表情に先程まで私の心を雁字搦めにしていた不安は少しずつ解けていく。嘘だと冗談だと無かった事にしなくてもいいのかもしれない、と私はホッと息を吐き、力が入っていた体を解放する。
時計の針がテッペンを指す、もう午後の仲間入りだ。サンジは相変わらず甘い顔をしてこちらを見つめ、もう準備は出来ていると言いたげな様子で背筋をピンと伸ばしている。
「もう嘘には出来ねェ時間だ」
サンジはそう言って、私の言葉に耳を傾ける。一つの真実は嘘に紛れる事もなくサンジの元にしっかりと届いたのだった。