短編2
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覚悟が決まらないまま、だらだらと先延ばしにした返事は日が経つにつれ、言い辛いものになってしまった。好きの理由は段々と好きになってはいけない理由に傾いて、言い訳がましいものになる。好きの後ろにつく「だけど」は彼女の弱さであり、逃げだ。そして今日も返事は宙ぶらりんのまま、いつもの日常がやってくる、筈だった。
サンジと船内に二人っきり、告白された時と同じシチュエーションに彼女は少しだけ緊張を覚えるが後ろをチラリと確認し、ほっ、と安堵からくるため息をつく。
「寝てる……」
耳に届く寝息にソファからはみ出した長い脚、きっと本を読みながら寝てしまったのだろう。彼女は椅子から立ち上がると、自身の私物の膝掛けを手に取り、ソファで穏やかな寝息を立てるサンジの体にふわりとそれを掛ける。長さは足りないが無いよりはマシだろう、彼女は満足そうに頷き、サンジに背を向ける。
「拒むならしっかり拒んでくれねェかな」
「へ」
彼女が振り向くと同時にサンジの手が彼女の腕を掴んだ。
「寝たフリ、してたの」
「しっかり寝てたさ、途中まではね」
寝転んだまま、こちらに視線を向けてくるサンジに彼女は居心地が悪くなる。あの日と同じ優しい碧が自身を優しく見つめてくる。
「そんな顔、やめて」
自身が勝手な事を言っているのは百も承知だが、今の彼女にとってそれは毒だった。
「……だめよ」
「駄目なら振り払えばいい」
彼女が振り払えば、その手はきっと離れたまま、こうやって彼女の腕を掴む事はもう無いだろう事も彼女は理解していた。揺るがせないで、離して、逃して、そう思いながらも振りほどけないのは彼女の中にも同じ気持ちがあるからだ。
「……」
「好きに理由は必要ないらしい、色恋に理由がいるのは別れだけさ」
だが、一つだけ理由をつけるなら君だったからだ
揶揄するような声では無く、至ってシンプルな声色でシンプルな答えを伝えて来るサンジ。ぐっ、と彼女の腕を引くと、寝転んだままの自分自身の体で彼女の細い体を抱き留めるサンジ。
「っ、サンジ」
「これなら、拒む理由になるだろ」
拒むなら今だぜ、とまた優しい逃げ道を作ってくれるサンジに彼女は泣きたくなる。
「……私も、サンジだから拒めないの」
胸の位置に置かれた彼女の頭を優しく撫で、サンジはこう口にする。
「逃してやるのは今日でおしまいだよ」
そう言って彼女の理由も言い訳も逃げも全部サンジが持って行ってしまうのだった。