短編2
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「サンジくんの歴代の彼女は凄いね」
「……はは、突然どうしたんだい」
二人揃ってベッドに寝転んで一日の終わりを彩るお話タイム、一日あった事、感じた事、話の内容は何でもいい。ただ、顔を突き合わせてお互いの話に耳を傾ける。目の前のサンジくんはきっといつも通り私の口から大した事の無い愚痴が飛んでくると思っていた筈だ。バイト先の客、大学の話、毎日派手な夢物語のような生活をしているわけでもない只の大学生の一日なんて味気無いものだ。なのに、毎回サンジくんは楽しそうに私の話に相槌を打ち、時には私の悲しみに同調するように私の身体をぎゅっと抱き締めて愚痴に付き合ってくれる。
「だって、これ以上なんて無いでしょ」
私の的を射ていない発言に首を傾げるサンジくん、そういう表情は元の年齢よりも随分と若く見える。その当時の若々しいサンジくんと付き合っていた女性はこの恋の終わりを乗り越えられたのだろうか、一度この男を知ってしまえば、他の男なんてジャガイモや人参と変わらない。ビジュアル面というよりも内面の話だ、勿論ビジュアルだって良い事には変わりない。
「サンジくんと別れられる女って凄くない?」
「……これって遠回しに別れてェって言われてるのかな?」
「別れたくないけど」
なら、良かった、とサンジくんは安心したように自身の胸を撫で下ろした。
「私だったら泣いて縋って別れたくないって暴れるなぁ、って」
「泣いてくれんの?」
瞳からは涙なんて溢れていないのにサンジくんの親指が私の目尻を撫でる。
「擽ったいよ」
「君が泣いた時の予行練習」
泣いた時の予行練習という言葉に私の動きはピタリと止む、泣く予定イコール別れという方程式が私の脳内に流れ込み、ショート寸前と言った所だ。
「君が泣くのはおれとの結婚式だけど」
「っ、ばか、紛らわしい言い方しないでよ!」
分厚い胸板を殴ってもサンジくんにとっては子猫が戯れているようなものだろう、痛がる素振りも見せずに頬を膨らます私を見ながら穏やかに笑っている。
「……今まで別れたくねェって泣いたのも縋ったのも毎回おれなんだ。はは、レディ達は切り替えが早くていらっしゃる」
切ない言葉とは裏腹にサンジくんの顔には悲壮感は無い、ただの昔話だとでも言うように軽い口調で過去を語る。
「私が別れを切り出したら泣いて縋ってくれる?」
「……泣いて縋って暴れて監禁するかもね」
「ふふ、間がガチっぽい」
「だって、ガチだもん」
サンジくんの腕にぎゅっと抱え込まれて長い脚に挟まれる、腕はまるで檻のように私の身動きを封じる。監禁は悪い冗談でも口からの出任せでも無いらしい。そして、それも悪くないのかもしれないと思い始めている私はきっとサンジくんの歴代の彼女のようにはなれない。
「君は凄ェ女にならねェで」
「サンジくんの横で凄ぇ女になるのは?」
「今も凄ェ可愛いけど、それ以上?」
それ以上、と言えばサンジくんは少しだけおかしな顔をして私の旋毛に顔を埋めるのだった。