短編2
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モドモドの実の能力の被害に合ったのは数日前、能力は無事に解けてゼットとの戦いにも勝った。今は数日前の戦いが嘘のようにのんびりと海を渡っている、半壊に近い状態までボロボロになってしまったサニーも修理のお陰で何の問題もなく、次の目的地まで一味を運ぶ。先程も記した通り航海については何の問題も無い、スムーズに進んでいる。だが、サンジにとっては大問題が勃発していた。島を出発してから恋人である彼女の様子がおかしいのだ、サンジが声を掛ける前にその場を離れ、サンジの視界に映りたくないとでも言うように身を隠す。島で怪しまれるような行動もしていなければ、島ではモドモドの実の能力で十代後半まで若返ってしまった彼女が心配で彼女のサポートを自ら買って出た程だ。何も不義理は働いていない自信がサンジにはあった。だが、仲間に聞いても、どうせお前が余計な事をしたんだろ、と決め付けられ張本人である彼女には徹底的に避けられる始末だ。
「……っ、クソ」
サンジは自身の金髪をくしゃりと掻き混ぜると遠くにいる彼女の様子を盗み見る。きっと、ここで空気を読まずにナミと彼女の間に割って入ってでもしたら彼女には逃げられ、ナミからは反感か拳骨、どちらかを間違いなくプレゼントされるのがサンジには分かっていた。ままならねェなと煙草の煙を吐き出したサンジは彼女から目を逸らし、その場を後にする。
避けられ続ける日々にサンジが疲弊してきた頃、彼女からのアクションがあった。食事も終わって皆が席を立つ中、彼女は洗い物をしているサンジの横に自身の体を滑り込ませてサンジが洗った皿に手を伸ばす。そして、布巾を手に取ると皿についた水滴を拭いていく。突然の彼女の行動にサンジは手を止める。
「ごめんなさい」
彼女の瞳は相変わらずサンジを映さない、今だってサンジの顔を見上げるどころか真っ白な皿を見つめている。
「……何に対しての謝罪かな」
「避けてた事」
きっと、ナミにでも背中を押されたのだろう。彼女は緊張したような硬い声でサンジの質問に答える。サンジは彼女の言葉を聞き逃さないように蛇口を閉めると手を拭いて、彼女の細い肩を抱く。
「怒らねェからさ。そんな怯えねェで」
緊張だってしなくていい、と彼女の肩をポンポンと叩くサンジ。そして、親愛を込めて彼女の旋毛に口付ける。
「……理由、聞かないの」
「君が墓場まで持っていくつもりなら墓場の中で聞くよ。今、無理に聞いて君の顔を曇らせる方が嫌だ」
君には笑ってて欲しい、とサンジは自身の口の端を指で持ち上げて戯けるように笑うと彼女の視界に飛び込んで来る。
「やっぱり、正面から見る君がいちばん可愛い」
彼女はサンジの首に腕を回して、ギュッと抱き着く。そして、避けていた間にサンジが彼女を盗み見していた事はどうやら彼女にバレバレだったらしい。
「煙草の匂いって本人は気付かないのね」
「……ウッ、面目ねェ」
普段と変わらないサンジの様子に彼女は安心したように息を吐くと避けていた理由をゆっくりと語り出す。
「こないだ能力で若返ったでしょ、私」
「ん、女神が天使になって驚いた」
「……もう、若くないんだなぁって思ったら急に不安になっちゃった。肌艶も体型も十代の頃とは違うし、サンジみたいな若い男の子の目にはおばさんとして映っちゃうのかなぁって」
まだ全てを言い終わらない内にサンジの大きな手の平が彼女の口に蓋をする、くぐもった声に被せるようにサンジは一言こう口にした。
「今から十二年後を見たっておれは君がいい」
おれの愛をナメんな、とサンジはまるで覇気を使っているかのような圧を出す。サンジは疑われた事よりも彼女が自分自身を卑下する事がどうしても許せなかった。
「なァ、おれが好きになったのは今の君だよ」
過去より今が可愛いし、明日はもっと可愛い、そんでさ、十二年後は君の可愛さで殺されちまうかも、なんて真面目な顔で冗談のような言葉を吐くサンジ。
「だから、常に君はいちばん可愛い」
彼女の両手をギュッと握り、はい、復唱、と顔をグッと近付けてくるサンジは彼女自身に可愛さを教え込もうと必死だ。目の前で真っ赤になっている彼女は実年齢よりも若く、まるで初心な少女のような顔をする。
「も、もう分かったから!」
年下の男の熱に当てられながら、彼女は青春をやり直す。十代の時よりも良い恋愛をしていると今なら自信を持って言えた。
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